玉響〜symphonia〜
□月夜語り
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今宵は月が美しい。
窓から吹き込む涼しい夜風。運ばれてくる虫の声を聞きながら眠りに付こうと目を閉じる。
「…なぁリフィル、まだ、起きてるかい?」
同じ部屋の隣のベッドから、しいなの声がする。
「…起きてるわよ?何?眠れないの?」
窓から月を見ていたから、布団のずれる音が背中から聞こえた。
「…うん。なんか寝付けなくて」
「寝る前にコーヒーなんて飲むからよ」
「喉、渇いてたからさ」
「それにしてももっと他の物を飲むべきだわ。コーヒーを飲んだら目が冴えることくらい分かっていたでしょう?」
「う、うるさいね!そこまで言わなくてもいいじゃないか!」
「うるさいのは貴女よしいな。……全く」
寝返りをうち、こちらを向いて話すしいなに向き合う。
「羊でも数えたら?」
「もう200匹くらい数えちまったよ!なのに全然眠くならないんだよ…」
「1000匹数えたらさすがに眠くなるのではなくて?」
「そんなに数えたくないよ…」
「…ワガママね。じゃあどうしようと言うの?」
「分かんないからアイデア貰おうと思って…」
「もう…。あとは…そうねぇ…星を数えるといいらしいわよ。せっかく今日は美しい月夜なんだもの」
「確かに綺麗な月だけどさ」
「そうでしょう?…そういえば知っていて?星の一つ一つに名前があって、物語があるの」
「いくらか聞いたことあるよ。七夕の織姫と彦星とか」
「たなばた?…そういえばミズホには独自の文化があるのよね。その話はどんな話なの?」
「え?知らないのかい!?…まぁ確かに七夕は他にはないか……7月7日をミズホでは七夕って呼んでて、その日には祭りをするんだ。笹の葉に願いを書いた短冊やら飾りやら沢山飾ってさ」
「なぜ、願い事を書くの?」
「その日はね、織姫と彦星っていう恋人同士が一年に一回出会える日で、幸せと喜びに満ちた二人がみんなの願い事も叶えてくれるんだって聞いたよ」
「まぁ。ロマンチックな話ね。で、なぜ一年に一度なの?」
「その昔、織姫と彦星は夫婦のように仲睦まじく過ごしていてね、仕事もせずに二人で遊び惚けてたんだ。それに怒った神様が、二人を大きな川の両岸に引き離してしまった。来る日も来る日もお互いに恋焦がれ、織姫の涙で川は増水しちまった。引き離しても仕事をしない二人に手をやいた神様が、一年に一度、七夕には逢わせてやろうと言ったそうさ。ただし、それ以外の日にはしっかり働くようにってね」
「なるほど。でも涙で川が増水するなんて、ありえない話よね」
「アンタって奴はー…おとぎ話なんだから、そう現実的に考えないどくれよ……」
「あら、そうかしら?物語には必ず根拠となるものがあるハズよ?」
「そりゃ遺跡とかならね…。そういやアンタって、何でそんなに遺跡にハマったんだい?」