玉響〜symphonia〜

□pursuit
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「お疲れ様です!」

客が多くて遅くなってしまったバイト帰り。

店から少し歩いて周りの違和感に気付く。

人の気配が…ついてくる。
あたしが進んだら進み、止まったら止まり。付かず離れず追って来る。

恐る恐る地面を確認する。
長く伸びた自分の灰色の影。
後ろは…見れなかった。

恐怖心から足が速くなる。
気配も速くなる。

返り討ち?それとも…


気付いたら走ってた。
身の軽さには自信がある。

逃げろ!






「おっはよーん。マイスウィートしいなちゃ〜ん」

学校に着いて準備をしていたら能天気な声が後ろからかかる。

「…ああ。ゼロスか……」

「ん?…どした?なんか元気ない?」

「…別にそうでもないよ」

「いやいや。オカシイっしょ。マイスウィートに反応しないなんて」

「…今、アンタの冗談の相手してやる気分じゃないんだよ」

「やっぱりなんかあるんじゃん」

「…ないよ。ただちょっと寝不足で調子が悪いだけさ」

「なんで寝不足なの?」

「!!」

しまった!あたしのバカ!妙に勘のいいゼロスにそんなこと言ったら、つっこまれるのなんて分かってたことじゃないか!!
でも…相談なんて……

「ちょ…ちょーっと考え事してただけさ」

「どんな?」

「え?どんな?えーっと…テッ…テストのこととかさ!そろそろ中間だろ?」

「真面目なしいながテストにびびることないじゃん。寝不足になるまで悩むことじゃないでしょーよ」

「そっ、そろそろ進路にも影響して来そうだしさぁ…」

じぃっ…とゼロスが見つめてくる。
疑ってる。絶対に違うと分かってる……。

「…しいな、ホントは何?何隠してんの?」

「隠すなんて人聞きが悪いねぇ。な、なーんにも隠しちゃいないさ」

ゼロスのこの眼は苦手だ。
青水晶の瞳が月の光をたたえて、静かに…けれど強くあたしに語りかけてくるんだ。
嘘をつくことは許さないと。ついてもすぐに見抜いてやると…。

「…ホントは?」

「…ッ」

ごまかしがきかない…けどやっぱり…言えない。

「た、大したことじゃないんだよ!アンタに心配されるほどのことじゃないさ。そこまで落ちぶれちゃいないよ」

可愛くない言い方だとは思う。仕方がないんだ。これがあたしの性格だ。
どうか…気付かないで。
強がりだと自分でもよく分かっているけどさ…。

「…ふぅん?」

納得してくれただろうか?

「ならいーけど」

「…っ」

ポツリと一言。
そのあまりに淡々とした様子に少し落ち込む。
言わせたのはあたしなのに。しかも確信犯なのに。

「…そーいや昨日、バイトって言ってたけど、どうだった?」

「どうって…お客が少し多くてあがるのが遅くなったくらいで、特には…何も……」

「そうなんだ?」

「うん…」

突然の質問に焦ったけど、誤魔化せた…よね?
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