玉響〜symphonia〜

□はつゆき
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「うわぁ綺麗〜」
「初雪だね!寒いと思ったら…」
「今年は暖冬らしいけど」



…もう雪が降る時期なんだな。
俺の大嫌いな季節の始まりだ。

さっさと屋敷に帰って、寝てしまおう。

そう思った俺の目に飛び込んできた見覚えのあるスカイブルーのマフラー。
マフラーにかかる黒髪。
まさか…まさか……!

『ゼロス』

俺の名を呼ぶ、彼女の笑顔が頭をちらつく。

「…しいな?」

少しの期待。
胸を指す冷たい痛み。

振り向いたその顔が君ならいい。いや、君じゃない方がいい。

視線に気付き振り向いたのは全く知らない顔だった。

…何を期待したんだろう?
今さら、どうしようというんだろう?

自嘲の笑いしか出てこない。

もう君が出ていって二度目の冬…か。

君がそばに居た時は嫌いな雪すら愛しく感じられた。

幼い頃のトラウマで動けない俺を包む優しい手。

「あたしが居るから大丈夫だよ」

いつもはアホだの変態だのサイテーだのと言うその唇から、温かい声。
不安から抱き締めると
「そばに居るから」と抱き締め返してくれた。

雪に染まる街。

身を縛る寒さも辛さも全部、甘く優しい熱が溶かしてくれた。

時にはソファーで。時にはベッドで。二人身を寄せ合うだけでも苦しさは紛れた。

そんな君を離したくないと思った。
でも、段々と昔の傷が俺を蝕んでいった。

今はそばに居てくれる君。
優しく俺を包むその腕。
温かいその体温。

いつか離れるかもしれない。
急に冷えて『アンタなんか愛さなければ良かった』
その唇がつむぐのはいつの日?

怖かった。その日が来たら俺は多分、崩れ落ちる。

「もう飽きた」

残酷なセリフを吐いた。
そうでもしなきゃ俺は自分を守れなかった。

傷付いた君の瞳。
途端に罪悪感が巡ったけれど、取り消しなんて出来ない。

「アンタなんか、こっちから願い下げ…」

言いながらも彼女の頬をとめどなく伝う涙に、思わず手を伸ばす。

「どうして…」

しばらく泣き続けた彼女を離せなかった。
…でも駄目なんだ。
こんなに君のことを愛してしまった俺は罪に堕ちる。

「…もう平気だから」

強がりを言う君。
ホントは抱き締め続けていたかった。

「じゃあね」

普通なフリして出ていく君。
傷つけてごめん…。
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