玉響〜symphonia〜
□ブラック×キャット
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ひっそりと夜に佇む街の中、賑やかなのは歓楽街や上流階級の住む区画ばかり。
華やかに色とりどりのドレス、帽子などに身を包んだ人々が向かうのは今宵ダンスパーティーの開かれている公爵の屋敷である。
一際明るいその豪奢な屋敷の辺りは、社交界を生きる者たちの高い話し声や笑いに充ち溢れていた。
「相変わらず耳障りだねぇ…」
しなやかに身を翻し、屋根伝いに走る黒い影。
夜に溶け込む漆黒の髪を高い位置で纏め、女性らしい凹凸をもつ体を黒装束に包み、革のブーツを履き、音もなく駆けるその姿は、さながら黒猫のようである。
彼女が向かうのもまた公爵の屋敷。
公爵の娘がつけるというダイヤをふんだんに使った、豪華なネックレスを奪いに行くのだ。
降り立った高台から屋敷を覗くと多数の警備の者が張り込んでいるのが見られた。
「やるねぇー」
顔の上半分を覆っている仮面から、意志の強い茶の瞳がのぞく。
「でもま、どうってことないけどね」
先に潜入していた仲間が屋敷の電灯を落としたのを合図に侵入する。
突然暗くなったのに焦る貴族たち。
獲物は屋敷の中心のダンス会場から離れ、部屋に居る。
屋根に移り、向かう途中、足を踏み外した。
どこかの部屋のベランダに着地する。
気付かれるかもしれないと、慌てて逃げようとしたら部屋の中からこちらへ人の来る気配がした。
「へぇ?」
現れたのは紅く長い髪が印象的な男。
良い仕立てのタキシードの胸元をはだけさせている。
そこから見える体は程よく肉も付き、極め細かな肌も相まって美しく、男の色気を放っていた。
「随分と綺麗な迷い猫だなぁ」
…コイツ、酔ってんのかい?
ほのかな酒の匂いと、プンプン臭う香水。
服装や雰囲気から見ても、今夜のパーティーの参加者だろう。
あ。
首筋にキスマーク。まさか…
「息抜きに来て正解だったなぁ」
ふと、部屋の奥に目をやると、ソファーのそばにドレスや帽子が落ちていて、薄絹に包まれ眠る女性の姿があった。
…そういうことかい。
「やっぱつまんないパーティーは抜け出すに限るね」
華やかなパーティーの輪から抜け出し、隅の部屋で戯れていたのか…。呆れた男だ。