烏玉〜boys love〜
□となりのとなり
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春。新しい季節。
俺は家を出て、全く知らない街へとやって来た。
大学に通うため、一人で暮らすんだ。
飯とか作ったことねーけど、母さんに料理の本ももらったし、どうにかなるだろ。
引っ越しは済んだし、これから俺の新しい生活が始まるんだ。ワクワクする。
まずは買い物に行かねーとな…。天気もいいし。散歩がてらいいかもしんねー。
『晴れた日に外に出るときは帽子を被って行くのよ?』と、心配性の母さんがくれた帽子を被る。
ドアを閉め、鍵をかけているとバイクの止まる音がした。
静かな住宅街。この辺の人が仕事から帰ってきたのかな?まぁいいや。
アパートの奥から二番目の部屋から歩いて、道に向かう。
出口のそばにある駐輪場から仄かな熱気とガソリンの臭い。
カッコイイ黒いバイクのそばに、柔らかい金色の髪の人が立っていた。
身長も高いし、優しそうな碧の瞳がすげぇ綺麗。バイクのよく似合う、大人の男。…まだ若そうではあるけど。
このアパートの住人かな?ジロジロ見ていると、気付いたその人が微笑みかけてくれた。
「こんにちは」
「こ、こんちはっ…!」
この人、声もカッコイイ。
「この前、引っ越して来た人かな?」
「え、あ、そうです。よろしくお願いします!じゃ、じゃあ、失礼します!!」
「気を付けてね」
「は、はい。ありがとうゴザイマス」
ニッコリ笑われた。何を俺はこんなに緊張してるんだ!?ってくらい、ドキドキして、声が変にはねあがる。
マジであの人カッコイイ。男の俺が言うのも変な話だが、本当に。ああいう人って憧れる。
買い物ってわりとめんどくせーもんだって、今日分かった。
レジは並ぶし、味噌の種類ムダに多いし、同じものでも値段が違うし、よく分からないもんもあるし。
キャベツなんか全部同じなのに「こっちがいいかな?あ、でもこっちも…」とか言って長々と野菜の棚の前に居る女も居るし、ガキはうるさいし。
疲れきって家に帰ったら、更に料理するってことも面倒な上に時間がかかることが分かって、めちゃくちゃ疲れた。
一人暮らしを始めて一週間も経ってないのに、家に帰りたくなってきた…。
けど家に帰ったら帰ったで親父うるせーし、何のために出たのか分かんなくなるし。
色々と他に縛られないのは楽だな。