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□甘い唇
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2月14日 バレンタインデイ
お菓子メーカーの戦略としか思えないイベントで、いつもならテレビで眺めるだけのイベントだが、今回ばかりは見逃せない。
なんせ、刹那・F・セイエイという恋人ができてからの初めてのイベントなのだから…


〜甘い唇〜


ロックオン・ストラトスことニール・ディランディは台所という名の戦場で必死の格闘を続けていた。

2月14日。

今までは聞き流していただけのイベントだったのに、愛おしい人がいるだけでこのイベントは容易くバラ色に染まる。

男同士だし、呆れられるかもしれない…

だけど、最近は友チョコなんかで同性に渡すのも決して珍しいことではないし、甘い物が好きな女性陣やお世話になっているクルーにもチョコレートを用意した。
なのに、刹那に渡す…と思っただけでなぜにこんなにも腕が震えるのか…。

「やっぱ菓子は難しいよな…」

料理は何とか形にできても、お菓子は別の難しさがある。
分量やら手順やらを間違えばたちまち別のものになってしまうし、味も落ちてしまう。
だからこそ、必要以上に慎重になり肩に力が入っているのは自分でもわかっていた。
本当は当日までに準備をしておくはずだったのだが、思った以上に菓子作りに苦戦し、クルーの分を作るので精一杯で肝心の刹那の分ができていないのだ。
なるべくないしょにしておきたい…という思いから刹那が訓練をしている間にこうして作っているのだが、胸を張って刹那に渡せるものを、と思うと非常に困難に思えた。

「湯煎…ってこれがまた溶けないし…」

温めたお湯の上にボールを重ね、何とかチョコレートが早く溶けないものかと思ってもスピードは上がらない。
根気強く続け、やっとチョコレートの形が崩れてきた時鳴り響いたのは召集の声だった。

「マイスター達聞こえる?急になったけど中華連邦領土内で紛争を確認。今から介入行動に入るわ。すぐに待機に入って!」

紛争への介入行動。

チョコレートへの未練は非常に大きかったが、自分がここにいるのは世界を変えるためで、それは何よりも優先されるべきこと。

ロックオンは、一瞬でニールの顔を捨てマイスターの顔になると台所をそのままに走り出した。








「お疲れ様。急な出撃でごめんなさいね。ゆっくり休んでちょうだい」

介入行動は順調に進んだが、紛争の規模が大きかったため作戦が終了したのは日付が変わる直前。
半日ほど戦い抜いた疲れにため息をつきながらロックオンが向かったのは片付けもせず出てきてしまった台所だった。
そこには、出てきたままの形でチョコレートが放置され、液体のままのチョコだけ。

「あ〜あ…間に合わなかったか…」

あのまま頑張っても、間に合ったかはわからない。
それでも、お菓子作りに挑戦したのはクルーの皆や刹那の喜んだ顔が見たかったから。

世界を敵にしておいて、こんなイベントにはしゃいだ罰があたったのかもしれない。
大体、男からこんなのをもらっても刹那は喜ばなかったかもしれない。
それを考えれば、これでよかったのかもしれない…
そう思うのに、無性に涙が出そうになるのは虚しさなのか、寂しさなのか…

ジッと溶けたチョコレートを見つめ、意味なくヘラでかき回していたロックオンはそんな自分の後ろにいる者に気づかなかった。
それに気づいたのは

「何をしている」

聞きなれた大好きな声を聞いたからだ。

「わ!!刹那!?」

咄嗟にチョコレートの入ったボウルを背に隠したが、刹那はパイロットスーツのままのロックオンに訝しげな顔をしたまま後ろを覗きこもうとする。

「何を隠している」

「や、何もないし!!」

本当は、一生懸命作ったチョコを渡したかった。
だけど、こんなみっともないチョコレートとも言えないものを渡すなんてできるはずがなかった。

「ほんとに何もないから!!」

だが、狭い台所で背後にあるものを隠し続けることなんてできるはずがなく、隠していたボールはあっけなく刹那の手に渡ってしまった。

「ち、違う!!そ、その、失敗して、」

ドロドロとした、中途半端に溶けたチョコレートなんて渡したくなかったのに。

きっと、呆れられる。
きっと、がっかりされる。

それは、恐怖に近い感情でロックオンは刹那から顔を逸らして意味のない言い訳をし続けた。

なのに、一向に刹那は立ち去るでも、何か言うでもなくじっとしていて。

「刹那…?」

恐る恐る刹那に目をやって…ロックオンは頬を染めた。

目の前にいる刹那は、じっとチョコレートのなり損ないを見ていた。
いつもと変わらない無表情に見えるが、ロックオンにはわかる。
刹那は、チョコレートをとても喜んでくれているのだと。

「これは俺がもらっていいのか?」

こんな、できそこないを。

「ご、ごめん…完成する予定だったんだけど…」

男のくせに、バレンタインなんて行事に乗っかっちゃったのに。

「…いや、これでいい…」

そんな嬉しそうな顔しちゃって。

「刹那…」

なんて愛おしい。

「明日、ちゃんと作りなおす。ごめんな、間に合わなくて」

時計は日付が変わる10分前で、今から固めてもとても間に合わない。
なのに…

「刹那…なんか、よからぬこと考えてる?」

今まで純粋にチョコレートを喜んでくれている雰囲気だった刹那の顔が、なんだか不穏な物を含んでいる気がしてロックオンは顔を引きつらせた。

付き合っているといっても刹那は未成年。
未来ある若者をこれ以上後戻りできないところまで引きづり込んでは…せめて成人まで…と考えているロックオンをどうやら不満に思っているらしい刹那は時々こんな顔をする。
こういう…男の顔をする時に刹那は、ロクでもないことを考えて実行しようとしている可能性が高いのだ。

「よからぬことなど考えていない。今日はバレンタイン。このチョコは俺のものだ」

違うか?という声が聞こえてきそうだ。

「そ、そうだけど…」

流されるな俺!!!

基本気持ちいいこと大好きな俺は、すぐに刹那に流されるけど、今日はだめ!
互いに作戦後で疲れてるし…
なのに…

「そして、ロックオンも俺のものだろう?」

「う…」

どうして、チョコレートを掬った刹那の指が近付いてくるのをよけられないんだ俺!!!!!!

「あ…ぅ…」

チョコレートにまみれた刹那の指がゆっくりロックオンの唇をなぞっていく。

チョコレートの甘い匂いと、唇から全身に走る痺れに、思考まで溶かされて…

「もらうぞ」

刹那の唇がチョコレートを舐め取り、口腔内まで優しく撫でていくのを、どうして拒むことができよう…

「せつ…な」

「黙っていろ」

ボウルの中のチョコがなくなるまで。


刹那の熱に翻弄されて、ロックオンは眼を閉じるのであったー。




と、いうことでバレンタイン小説でした…
今までで一番色っぽさを目指して挫折です。
おまけで刹那視点がありますので、お楽しみいただけたら嬉しいですv
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