小説(その他)

□ペルシャ人の手紙
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 ユスベクには唯一愛する妻、ロクサーヌがいた。彼はその妻とともにパリに行くことを望んでいた。しかし、その彼の望みは宮廷で一蹴された。彼は自分の身の安全を優先させるべきなのか、それともいつ自分の首が切り離されてもおかしくないという状況のこのエスファハーンにロクサーヌと共に留まるべきなのか。彼の葛藤は時間の流れをせき止めた。かと思うと、それは滝となって流れ落ちていった。また時には、それは炎となってめらめらと激しく燃え上がった。時間は、こうして彼を無視するかのごとく進んでいった。
 ユスベクは旅立ちの日が間近に迫っていると知らされたとき、ついに彼はパリに行くことを決心した。敢えていばらの道を選ぶことによって、彼は心の平静を得ようとした。いばらの向こうには必ず最善の結果が待っている、彼は自分にそう言い聞かせた。ユスベクが自分の意思をロクサーヌに告げた時、彼女は夫にパリに行かないよう説得した。だが、妻の頼みとはいえども、ユスベクの意思は固く、それが揺るぐことはなかった。彼はロクサーヌへの理解を求めることに努めた。だが、互いの気持ちはほとんど接近しないまま、旅立ちの日がやって来た。ユスベクは非常に残念な気持ちで別れの言葉を述べなければならなかった。
「ロクサーヌよ、私は旅立たねばならぬ。お前を一人残していくのは、とても辛く悲しいことだ」
「ユスベク様、わたしは……」
「何年も帰ってこられないかもしれぬ」
「わたしは、あなたがいないと生きてはいけません」
「必ず戻ってくる。私の身から危険が遠のく時、私の宮廷での罪がはらされ、金に目のない大臣たちが王宮から離れた時、私はお前のもとに戻ってくる」
「それはいったい、いつの日になるのでしょう。あなたという方は愛される幸せを何ともお思いにならないのでしょうか?」
「ロクサーヌよ、私を困らせないでくれ。私の帰りを待っていてくれ」
「ああ、あなたは今、何を失おうとしているのかさえ、ご存知ないのです」
「どこにいても、私の心はお前の中にある。この世でもあの世でも、私はお前しか愛することができないのだ」
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