小説(その他)

□ペルシャ人の手紙
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   一(一七一一年四月)

 見事な朝焼けである。イスファハーンの空は紅色に淡く染まり、王のモスクはまた一段とその輝きを増している。先日まで降り続いていた雨もぴたりと止み、すがすがしい空気が漂っている。通りや広場には、まだ人影はなく、街は静寂に包まれている。
 ユスベクはペルシャの貴族である。彼の住居はイスファハーンで最も美しい通りであるチャハール・バーグ通り沿いにある。家の広間に面している庭園は広大なものとは言えないが、その美しさは街で一、二を争う。庭園の中央には、透き通るような白大理石で囲んだ大きな泉水がある。広間の中央にも四角い泉水があって、その中心から噴水が四本吹き上がっている。泉水を取り巻くように絹糸や金糸で織った絨毯が敷かれ、豪華な刺繍張りのクッションがいくつも置かれている。
 ユスベクはいつもこの時間帯と言えば、居間で朝食が支給されるのを待っていたのだが、今日は違った。彼は立派な身なりを装い、妻のロクサーヌとともに朝の日の中にいた。ユスベクにとって、今日とはイスファハーンから遠い異国の地、パリへ旅経つ日であった。
 貴族であるユスベクは若いころから宮廷に出仕した。もともと正義心の強かった彼は腐敗した宮廷政治の中で真実を追求し、有徳であろうとした。悪徳であろうとした。悪徳を知るとすぐに、彼はそれから遠ざかった。そしてその後、それに近づいて、化けの皮をはがしていた。彼は玉座の下まで真実を持ち込んだ。だが、彼の誠意が逆に敵をつくり、大臣たちのねたみを招き、まったく君主の寵愛を得られなかった。ユスベクはもはや微力な徳行によって身を保っているにすぎないと知ったとき、彼は宮廷を去ろうと決心した。そこで、彼は学問に対する大変な愛着を装った。すると装った結果、愛着が板についた。もはや、どんな政治問題にも関わらず、彼は自宅に閉じこもった。ユスベクは相変わらず宿敵たちの悪意にさらされ続けていたが、家に閉じこもるということが、宿敵たちから身を守る手段をほとんど失わせた。ある日、彼の同僚リュスタンから内密な密告があって、彼は真剣に身の振り方を考えさせられた。そして、彼は祖国を亡命しようと決心した。そのためには彼の宮廷からの引退というそのことがもっともらしい口実をリュスタンが提供した。それは西洋の学問を修めるということである。ユスベクは国王のもとに参じ、その望みを伝え、彼の旅行によって王が利益を得ることもできようと示唆した。その結果、王はユスベクにパリへ出発することの許可を与えた。これで宿敵たちの手から逃れることができる、と彼は信じた。
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