小説(西洋もの)
□ブルータス
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紀元前四十二年、ギリシャのフィリッピ平原でアントニウスとオクタヴィアヌスの率いるローマ軍と、ローマを逃れたブルータスとカシウスの軍が対峙していた。
紀元前四十四年三月十五日、カエサルが暗殺された。首謀者はマルクス・ブルータスとカシウス・ロンジヌスの二人であった。ブルータスが暗殺を決めたのは、カエサルが憎いというよりも、純粋に国家を憂い、国体の護持を思っていたからであった。カスウスはと言うと、カエサルのもとで出世ができず、その不満がたまっていたからだった。カシウスはブルータスを暗殺メンバーのリーダーに担ぎ上げた。彼の理念のもと、多くの同志が集まった。暗殺は成功した。だが、カエサルの右腕であるアントニウスは無事だった。これは、ブルータスの「我々は殺し屋ではない」という異議によるものだった。だが、彼をいかしたことが、暗殺メンバーのその後を決めた。暗殺後の政治の趨勢はカエサルが描いていたものと何ら変わりはなかった。アントニウスを始めとするカエサル派の人々は暗殺者たちを糾弾し始めた。ブルータスとカエサルはローマにいることができなくなった。彼らはイタリアを離れて、再起を期さなければならなかった。
ブルータスとカシウスの軍勢十万とアントニウスとオクタヴィアヌスの軍勢十二万が激突を開始した。軍勢の数の多さに反して、戦いの決着は意外と早く着いた。まず、カシウスの軍がアントニウスの前に敗北。激怒した彼は自害した。オクタヴィアヌス軍に対して押し気味であったブルータス軍は、友人の以後、形勢が逆転した。
アントニウス、オクタヴィアヌスの両軍が総攻撃を仕掛けてきた。ブルータスはその頭の中に「国体護持」の四文字を話すことがなかったが、もはや絶望的になり、何も考えられないような状態になっていた。だが、彼は最後の気力を振り絞り、信頼する部下の期待になんとか誠意を示さねばならなかった。
総攻撃が始まってから、戦闘終了まで、さほど時間はかからなかった。ブルータス軍の兵士たちは、そのほとんどが地に伏せているか、もしくは的に背を見せているかのどちらかだった。
「ブルータス様、私の馬にお乗りください」遅れてやって来たクライタスは敵か味方かも見当つかない雑踏の中にいる主君の姿を認めると大声で叫んだ。ブルータスは馬に乗らず、ストレイトーの肩を借りてなんとか歩いていた。
ブルータスは岩陰に入ると、ストレイトーの肩から自分の腕を離し、崩れるように身を下した。
ストレイトーは岩にもたれかかって動こうとしないブルータスの肩を揺さぶった。「何をなさっているのです。さあ早く。クライタスの肩に乗ってお逃げください」
(執筆中)