長編物

□合わせ鏡
1ページ/53ページ


朱色の髪を持つ少年の身体が光の粒子となって、サラサラ消えていく。

その腕には己の半身でもある緋色をしっかりと抱き、翡翠の瞳で愛しい彼を見つめている。




「アッシュ」




か細い声で、朱色は緋色の名を紡ぐ。





「アッシュ」





もう既に、光の粒子は腰辺りにまで及んでいた。




「終わったよ、全部。」



自らの師を討ち預言を覆した朱色の少年は、最後の最後に自分の価値を見出した。





己が生まれてきた、意味を知った。



「終わったんだよ…なのに」





お前は、先に逝ってしまった






なんで?



どうして?



疑問ばかりが胸中に渦巻く。






「約束、したのに」



頑固で素直じゃないお前との



「最初の、約束」



ああ…でも俺も破っちゃうことになるのか、と少年は一人自嘲する。





「駄目だな、俺たち」




彼を抱えている腕に、ギュッと力を込める。


自分たちを包んでいるガラス玉のような透明の膜は、フワフワと宙に浮いている。

一体、何処まで落ちて行くのか。
いっそのこと、暗闇の底にでも落ちてくれないかなとさえ思う。

そうしたら二人きりだし、と朱色は笑顔を浮かべた。




『ルーク…』



少年が解放したローレライが、話しかけてきた。

彼らの周りを飛び回り、ユラユラとその姿を揺らす。


そして、朱色に問う。




『…彼を救いたいか?』





彼…







『アッシュを、救いたいか?』






アッシュを





本当の、『ルーク・フォン・ファブレ』を









愛しい、己の半身を。




両の目を細めて、少年は考える。




何も知らなかった、哀れな自分。



そんな自分に降り注いだ、一筋の希望。










自分に与えられた、優しい温もり。








その全てが愛しくて。








「俺は…俺はアッシュを」














淡い光が、『赤』と共に弾けて消えた。










NEXT→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ