長編物
□ガラス玉ひとつ…(完結)
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「おーいアッシュ!」
バチカルの城下を歩いていた俺に、後ろから声がかかった。
聞き覚えのあるその声に、俺は素直にそちらを振り返る。
「…なんだ、ガイか」
「なんだとはなんだよ失礼だな」
俺を咎めるような口ぶりだが、その顔には優しい笑みが浮かんでいる。
そして右手には中ぐらいの荷物を持っていた。
「グランコクマから来たのか」
「ああ、陛下が休暇を下さってね。ちょっくら遊びに来たってわけさ」
「これ、お土産な」と言って(無理やり)渡されたのは。
「…なんだこれは」
ピンク色の丸々した物体。
「見りゃわかるだろ?巷で有名な【ブウサギ型キーホルダー】。」
ちなみに選出はピオニー陛下自身だとか。
いや、そんなことはどうでもいい。つーか何故俺にこんなモンを…どこに付けろってんだ、剣の鞘か?
「そういやアッシュ…その格好…」
「ああ…これか」
鮮血のアッシュ。
今俺が着ているのは、その名を語っていた頃のものだった。
前髪こそ下ろしてはいるが、コイツにしてみれば見ていてあまり気分のいいものではないのだろう。その証拠に先ほどまで貼りついていた笑顔が見事にはがれている。
「…ま、別に気にしないけどさ」
しばらく沈黙していた俺たちだが、そんな空気がいやだったのかガイ方から話し始めた。
「…すまない」
「謝るなよ。おまえにはおまえの思うところがあるんだからな。気にするな」
「ああ…」
そういって、ガイとは別れた。