拍手小説まとめ

□夢番外編〜拍手小説・政宗夢2〜
1ページ/2ページ


「コタ」
「……。」

ここは甲斐。
武田信玄が統治する国。
一昨日甲斐に入国し、武田信玄の許可の元、ここを拠点に帰路の探索に入る…筈だった。

「ここは奥州だよね?」
「……。」
「そんでもってここは政宗くんの部屋で、その手に持ってるのは私の荷物だよね?」

何故か自分は今、小太郎と共に奥州の統治者である伊達政宗の部屋に居た。

何故かは分からない。

起きたらここに居たのだ。

「答えなさいコタ」
「……。」

こんなマジックのような出来事、普通なら有り得ない。
つまり考えられる要因は目の前にかしこまる伝説の忍、風魔小太郎以外に無いわけで。

「もしかしてコ…」
「Hey!」

追求しようとした刹那。
言葉尻をかっさらうかのように、スッパーンと障子が開かれた。
軽快かつ大胆なこの開け方に喋り口調。
誰かなんて見なくても分かる。

「政宗くん…」
「おぅ、無事か?」

スタスタと、威風堂々と室内に入ってきたのはこの部屋の主である伊達政宗。
彼は自分の目の前で立ち止まると、存在を確認するように頭を撫でてきた。

「よしよし、無事みてぇだな」
「ち…ちょっ…」

気が済むまで撫でたのか、乱暴に頭を撫でていた手がパッと離された。
乱れてしまった髪を手櫛で直すと、彼はそのまま小太郎に声をかけた。

「ご苦労、もう帰っていいぞ」
「え?」

言うが早いか。
政宗の一言を合図に、小太郎の姿がフッと掻き消えた。
何故小太郎が政宗の言う事を聞いているのか。
彼の主としての権限は、今は自分にある筈なのに。
その疑問はたちまち解消された。

何の事はない。

元々、主導権は北条氏を屈服させた政宗にあるのだ。
口上では今は自分が彼の主となっている。
だが、自分は彼の身を預かっただけで彼を完全に貰い受けたわけではない。
簡単に言えば小太郎は政宗が自分にレンタルしていた状態という事になる。

「何難しい顔してんだ?」
「難しい事を考えさせられるような状況なもので」

政宗の質問に若干の嫌味を込めて返す。
と、彼が愉快そうに笑い出した。

あぁ…やっぱりか…

悪戯が成功したようなこの笑顔。
それを見て確信した。

「ここに連れて来るよう言付けたでしょう…」
「んん?さあな」

ぽつりと呟くように言ったその一言に、政宗が更に笑みを濃くする。
『yes』と言っているのと同じだ。

(やっぱり…!)

政宗は小太郎に命じていたのだ。
自分をここに運ぶようにと。

いつそれを命じたのかは分からない。
もしかしたら彼を預かる前から仕組んでいたのかもしれない。
だが、相当シュミレーションしてこの命を下したのだろうという事は分かった。

「…すっごい調度よく現れたよね政宗くん」
「おぅ、さっき着いた」
「奇遇だね、私もちょっと前に目が覚めたんだ」
「そうだろうな」

自分が目覚める時間や、小太郎に質問する内容、また、それに要する時間等も考慮した上で、彼は甲斐を出てきたのだろう。

『起きて小太郎に追求しようとした所で調度よく到着するよう時間を割り出す』

こんな不確定要素のたっぷりある計算、普通の人間にできるものだろうか。
洗練されすぎている彼の把握能力に、畏敬の念を抱く所か呆れてしまった。

「…マズイんじゃないの?」
「Ha!老いた虎なんざ怖かねぇよ」

自分は会談で甲斐に残ると宣言した。
その宣言を、政宗はもちろん、その場の全員が同意を示した。
それなのに自分は奥州に居るし、政宗は小太郎を使って自分を奥州へ連れてきてしまった。

嘘吐き二人。
許される事ではないだろう。

自分の場合、彼らによって連れ去られた形になるので明らかに被害者なのだが、端から見たら協力して脱出したと思われるだろう。
何と言っても手際が鮮やかすぎる。

「…っあー…幸村くんに何て言ったら…」
「あぁ?目の前に俺が居るってのに他の男の話か?」

幸村の名が出た瞬間、政宗が真正面にドカッと座り込んできた。
不機嫌なその顔に、こちらもささやかながらムッとする。
彼のおかげでしなくても良い心配と抱えなくても良い不安を胸に宿しているのだ。
少しは我を抑える事をして欲しい。

「あのねぇ政宗く」

「お前は俺の嫁だ」

諦め半分で説教をしてみようと言葉を紡いだ瞬間。
彼の口から耳を疑うような言葉が出てきた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ