novel : two

□賽は投げられた*ZXR
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 ロビンは溜め息を吐き、行くわと答えた。
 直後手が軽くなる。

「一体どういう事かしら」
「いいから、座れよ」

 そう言われ、ロビンは素直にゾロの隣へ座った。

「飲むか?」

 ゾロが直接口を付けて飲んでいる酒瓶を、ロビンの前に寄越す。
 ゾロは、ロビンが酒瓶を受け取らまいと高を括っていた。

「…いただくわ」
「は?」
「? いただけるのでしょ?」
「あ、ああ。ほれ」
「有難う」

 ゾロから受け取った酒瓶を、躊躇なく自身の口へと滑らせる。
 コップは、ない。狭い見張り台。見渡さなくとも分かるだろう。
 コップがない状態で酒瓶を受け取るという事は、そういう事で。
 ゾロは意外な展開に息を飲む。
 ハラハラするゾロをよそに、ロビンのこくりと飲む喉の音が微かにゾロの耳に届いた。
 ゾロは口をポカンと開け、その光景に見入ってしまった。
 その呆けるゾロに気が付いたロビンはキョトンとした表情でどうしたの? と首を傾けた。 

「いや、何でもねェ」
「そう? それじゃ本題。何故私を呼んだのかしら。理由は?」
「別に…」
「理由がなくて私を呼んだの? 理由もなく行動するなんて、あなたらしくないはね」
「俺らしくない?」
「ええ、未来の剣豪さんが、理由なく行動するのは珍しいじゃない?」
「理由か…。学者ってのは、何でも説明文が必要なのかよ」
「フフ、そうかもしれないわね」
「理由はな、ただお前と話したかった。それだけだ。正当な理由だと思うが」

 くい、と酒を煽りロビンを見遣る。
 目の前にいるロビンは艶かしいほど美しかった。息が止まるほどに。

「お前は俺とは話さねェのな。そんなに俺が嫌か」
「よく言うわ。あなたが私を避けてた。違うかしら」
「いつの話だよ」
「あら、もしかして私とお話したかったの? そう聞こえるわよ」

 酒瓶をゆらゆらと揺らすゾロ。その水面がちゃぷんと跳ねる。

「そうだ。話したかった。他愛もねェような事を、笑いながら…な」
「そう、実は私もよ」

 目が丸くなるとはこの事を言うのだろうか。
 ゾロは文字通り、いつもは鋭い眼をこれでもかというくらいに丸くした。
 その様子を見、にこりと笑うロビン。その瞳に嘘は見つからなかった。

「は? マジか?」
「ええ、マジよ」
「…お前の口からマジなんて言葉が出るとはな。マジ面白ェ」
「あらそう? いつもこんな感じよ」
「そうか。俺はお前の事、何にも知らねェのな」
「話さなきゃ、分かるものも分からない。あなたに拒絶され続け、それに慣れてしまった。だから、私は一歩を踏み出せなかった」
「…何の話だ?」
「分からない? あなたが好きだという事よ」
「!!」
「また拒絶する? それでもいいわ。私は一歩を踏み出した。あとはあなたの出方次第ってとこね。コックさんの助言通り」

 クスっと笑う口元。その口元をすらり伸びる手が覆う。その指先までもが妖艶だ。

「コックと…。そうか。何だ。そういう事か」
「ええ、コックさんには私の気持ち、以前から知っていたみたい。
 だからコックさんに相談していたの。どうにかしてあなたと親密になりたいって」
「よく泣かなかったな。あいつ」
「…毎回相談する度に泣かれたわ。
 今夜もそうよ。俺だったら幸せにするのに…と抱きしめてくれて…。本当、コックさんには感謝しないと」
「感謝なんかしなくともいい!!
 俺より先に…ブツブツ……
 ダァーーーッ!!
 とにかく、あいつの話はもう止めだ、止め。お前の話が聞きたい」
「フフ、分かったわ。でもあなたの事も教えて」

 ゾロは持っていた酒瓶をロビンに手渡す。
 二人で一つの酒を飲み合う。

 二人の距離が縮まろうとしている。そろりそろりと。
 賽は投げられた。
 これから二人は、同じ刻を刻み始める。
 思いは同じ色彩。
 淡いピンクのような、ほんのりと色づいた赤色のような。
 まるで、桜の花弁が二人を包み込んでいるように。

 さあ、何から話そう。

 二人の視線が絡み合う。

 視線は離れない、離さない。









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