novel : two

□貪欲、嫉妬。*ZXR
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「なあ。考え過ぎんなよ。何が合ったのか、俺に話せ。
 話さないと伝わらない。伝わらなけりゃ、知ることも出来ない。
 俺はお前をもっと知りたい。お前を近くに感じてェ」

 そんな顔でそんな台詞を吐かないで。
 もう狂いそう。あなたという大海原で、私は溺れてしまいそう。
 弱い自分が嫌い。哀しむ自分はもっと嫌い。私はそんな事で挫いている暇はない。
 ゾロの為の幸せを祈れないで、愛なんか語れない。ゾロを困らせてはいけない。
 そんな事、とっくに分かっているくせに。

「ゾロ…。あなたが好き…だった。でももう大丈夫。ふふ。
 子供みたいに泣いてしまって。皆には内緒よ」
「…んだよ、好きだったってよ? そんなの知らねェよ」
「…ごめんなさい。迷惑は百も承知よ。でも言わせてもらってすっきりしたわ」
「てめぇだけで納得すんな、阿呆。俺の気持ちはどうでもいいってか?」
「あなたの気持ち? 航海士さんへの想い?」
「ハァ〜? 何だそりゃ?」
「航海士さんには想いを伝えたの?」
「何の想いだ? っつーか、何でナミが出てくんだ?」
「隠さなくていいわ。もう大丈夫だと言ったでしょう」
「勘違いしているようだが…。ナミは何の関係もねェ。
 俺は今お前と話している。
 俺の眼にはお前しか映らない。
 俺の視線はお前しか追わない。
 俺の意識はお前に飛んでいる。
 俺のすべてがお前を欲している。
 迷惑か? 例え迷惑でも、俺はもう止まれねェ。
 お前は好きだったと言った。過去形だな?だが、俺は“好き”だ。現在形だ。何か文句あっか」

 ゾロは早口で捲し上げ、言い終わるな否や顔を真っ赤にし、そっぽを向いている。
 今の私の顔。ポカンと口を半開きにし、眼は真ん丸、相当おかしな顔をしていたと思う。
 こんな呆けた表情を見られなくて良かった。
 ゾロに気付かれぬよう、ホッと胸を撫で下ろした。
 そっぽを向いたまま、ゾロが頭をガシガシと掻きむしっている。
 照れ隠しの時にする、この仕草が今はこんなに意味を持つとは。

 ねぇ。“好き”と言ったの? 私を? どうして? なぜ?

「あなたが好いているのは、航海士さんでは? この頃よく二人でいるわよね」
「お前、ひょっとして…」
「その先は言わないで」

 彼の胸に私の分身を咲かせる。その分身は彼の口を覆い、言葉を吸収する。
 その先の言葉は聞きたくない。幾年か私の方が刻を多く重ねているのに、その私がどうして子供のように振る舞えよう。
 その先の言葉は聞きたくない。子供のように感情を出すような、そんな霰もない姿は見られたくない。
 思考を飛ばしている私は衝撃を受ける。
 咲かせた分身を、あろうことかゾロが執拗に舐め始めた。妖艶に。官能的に。
 指の間も爪と皮膚の間にも、彼の蠢く舌がしっとりと、じっくりと。

 我に帰り、分身は消え失せた。
 彼の眼が私を射る。私は怖い。彼の眼力に目眩がする。

「お前、意外にガキだな。だが、そういうギャップがまたそそる。
 な、妬いてんだろ? 正直に言えよ」
「そう…かもしれないわね」
「チッ、あくまでも大人ぶりてェんだな? だったら」

 口元を上げ、意味有りげににやりとする。
 その表情を不振に思い、訝しげにゾロを見る。

 その時、私の目の前にゾロの妖しく輝く瞳が泳いでくる。
 次の瞬間、ゾロは私の唇を奪った。

「んんっ!! ……ん………ん…」

 頭がくらくらする。私は彼と唇を合わせている。
 どうしようもない高揚に、なすがまま、流れに身を任せる。

「ん……は…っ…」

 唇が離れても、口元には名残りが。余韻に浸る私に、彼は言った。

「あのな、俺が好きなのはお前であって、ナミじゃねェ。最近ナミとはお前の話しかしてねェ。
 お前の遣ること為すことすべてが気になって仕様がねェ。だからナミに聞いてた。お前の事をな」
「本当なの?」
「ああ、本当だ」
「…口づけは?」
「…無理矢理したのは悪ィ。謝る」
「これからも?」
「ん? して欲しいのか? なら」

 ゾロが近づいてくる。
 私はもう眼を閉じている。
 して欲しくてして欲しくて堪らない。
 その溶ける舌で、あつい熱で、私を掻き回して欲しい。
 貪欲な、嫉妬深い、私のすべてを…。








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