novel : two

□曼珠沙華*ZXR
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 秋島の季節は秋。遠くに望む山々は紅葉に燃え盛る。競うように木々を揺らし、葉々は散り急ぐ。そんな魅せる島に、サニー号は停泊した。
 壮大な景観以外には何もない孤島のこの島では、食料ともいえないような木の実や果実、茸などを取る以外に目途もなく。食料調達組みを除いた他クルーは、思い思いに好きなことをしながらログが溜まるのを待った。
 ログが溜まるのは、前島の情報によれば二日。明後日の朝には出航できそうだ。とは言え、食料調達は容易ではない。なんせ、この海賊団の船長が大食漢なのだから。あればあるだけ、その巨大な胃袋へと収納されてしまう。その彼を満足させるとなると、多大な量の食料が必要となる。今日、明日に調達する食料は、今ある食料の足しだ。そうでもしないことには、次の島まで持つかどうか。些か次元の低い話ではあるが、それでもこの海賊団には深刻な問題であった。
 調達組みの三人、サンジを筆頭にウソップとゾロは朝早くから上陸していた。大きな麻袋を背中に背負い込み、三人三様の表情を表しての上陸だった。
 サンジは先頭に立ち、その島、その季節の食材を探せることを楽しんでいる。時折、食料には関係のない奇麗な花を見つけては、これはナミさんにお土産、これはロビンちゃんにお土産、などと言いながら野花を摘んでいる。ウソップは、せっかくの上陸、季節の木々や生き物を目に焼き付け、後にスケッチとして残しておこう、と志気を高めている。時々、スケッチブックよりも小さなノートに、思い描くことをメモしている。
 そしてゾロ。面倒くさそうに渋面を隠そうともせずに、仕方がないと言わんばかりの表情をいぶり出している。鍛錬も昼寝も出来ねェじゃねェか、とさっきから愚痴を隠そうともしない。下唇はあからさまに突き出していて、相当苛立っているようだ。

「しゃきっとしろよ、ゾロ」
「くじ引きだ、仕方がねェだろうが」
「……うっせェ」
「いいか、マリモ。麻袋をいっぱいにしろ。さもないと」
「さもないと何だよ」
「ナミさんの鉄拳が振り下ろされるぞ」

 それは御免だ、などと呟き、血相を変えてそれぞれが森へと散らばっていった。
 一方、留守番組みのルフィも冒険だ、上陸だと大騒ぎをしていたが、ナミの鉄拳であえなく撃沈。今は大人しくチョッパーと船縁に乗り、意気揚々と釣竿を垂らしている。が、ナミは大して期待はしていない。釣れたら勿怪の幸い、などと思っている。
 当のナミはダイニングで本を読んでいる。サンジが用意したナミ専用のオレンジジュースを傍らに置きながら。ときどきグラスを傾け、雫をぽたりと落としながら、恋愛小説にのめり込んでいた。

「ナミちゃん、ちょっとお散歩に行ってきてもいいかしら」

 先ほどまで甲板で読書をしていたロビンがダイニングへと現れた。子供じゃない。いちいち断らなくてもと思うが、なんせロビンは強者だ。ちょっとした遺跡があると見境がない。時間を忘れ、発掘に没頭してしまうのだ。朝早く上陸し、帰船したのが二日後だった…ということもざらだ。そういう経緯もあり、ナミにお伺いを立てなければいけないのだ。

「え、この島ってそんな有名な島なの?」

 もちろん、ナミが言うのは歴史のこと。 歴史に深い島なら、ロビンはそれにのめり込み、必ず時間を忘れるであろうことは目に見えている。それならば、誰か一人クルーを連れて行かせよう、ナミはそう考えたのだ。

「いいえ、本当に少し歩きたいの。ただの散歩よ。気分転換に。ナミちゃんもどう?」
「うーん。あたしはいいかな。この小説、面白いから最後までノンストップで読みたいの。行ってもいいけど、遺跡を見つけたとしても、一旦帰船してからにして」
「承知したわ。それじゃ行ってきます」

 行ってらっしゃい、と笑顔で送り出してくれる。ロビンはそれだけでも嬉しいことだった。 闇に溶けていた20年。誰がそんな言葉をロビンに発しただろうか。答えは簡単。誰もいない。
 いなくなろうが死のうが、そんなのは日常茶飯事。さっき話した相手が次の瞬間には海の底に沈む。明日は我が身、生と死がアンバランスに存在し、ロビンに襲いかかる。そんな異世界で生きていたのだ。この船のクルーの言葉にどれくらい癒されたことだろう。常に独りではなく仲間が見守っていてくれる。そんな甘い気配にロビンは頬を緩ませ、足どり軽く梯子を降りた。








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