novel : two

□撓う裸身、堪える肉体*ZXR
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くしゅん。

 芝生で横座りし、本を読んでいたロビンが、くしゃみを一つ零した。
 ロビンの膝に寝転び、ロビンとは別の本を読んでいたチョッパーが、心配そうにロビンを見上げる。

「ロビン、大丈夫か?」
「ええ。ただのくしゃみよ」
「熱は? 咳は?」
「大丈夫。よく言うじゃない? 一回目のくしゃみは誰かが噂している証拠だって。だから、この瞬間私のことを誰かが噂していたのかもしれな……、くしゅん」
「わあ、ロビン二回目だぞ?」
「ふう。二回くしゃみが出たわね。それだと…誰かが私の悪い噂をしているのだわ。チョッパーは、誰が噂していると思う?」
「んー……ロビンを悪く言うヤツって、この船にいるのかな?」
「ふふ。それもそうね。じゃあ、海軍……かしら……、くしゅん」
「ロビン!! 三回も出たぞ!!? 三回目は何なんだ!?」
「三回目は…ただの風邪、と言い伝えられているわ」
「それじゃ、ロビンは風邪をひいたのか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「昨夜の海賊船の襲撃が原因じゃないのか?」
「大丈夫。さ、昼食までに本を読み終えてしまいましょう。そうしたら、午後からは感想を述べ合うのよ?」
「うん! おれ、わくわくするぞ!!」
「ふふ」

 ロビンは笑顔をチョッパーに添え、またそれぞれの本にめり込んでいった。二人とも、午後に約束した感想を言い合うことが、殊更楽しみでいた。チョッパーは適切に簡潔に述べるために、本を食い入るように読んでいる。それを見遣るロビンは慈愛に満ち、柔らかい表情を醸し出していた。
 不意にロビンのページを捲る一定のリズムと、チョッパーの捲るリズムが多少ずれてき始めた。
 ロビンは本を持ち上げ、膝上のチョッパーを覗き込むと、チョッパーは本を持ったままの状態で目を瞑っていた。
 そっと口元に耳を近づける。スースー、と規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
 次の島の海域に入ったのか、気候は安定して陽気がいい。ナミが春島の春、と言っていた。
 太陽はもうすぐ真上に到着しそうだ。温かい日差しを投げ掛けてくれている。ぽかぽかとした空気に、ロビンでさえも瞼が重くなった。

「ナミさーん、ロビンちゃーん、ランチのご用意が出来ましたーッ。すぐにダイニングへお越しくださーい。序に野郎どものメシも出来てる。さっさと食いやがれ」

 キッチンのドアが開き、大音量の声音がサニー号に響き渡る。思い思いに過ごしていたクルー達が、次第に集まりだした。
 ジムで鍛錬をしていたゾロは、汗を拭きながらフォアマストに凭れ、未だ夢の中にいる二人に近寄った。ゾロはその光景に自然と口が緩む。
水の都の闘争が記憶に新しい。ロビンがいなくなったときも、ロビンの別れの言葉を聞いたのもチョッパーだった。二度もロビンを失う場面に直面し、小さな身体でそれを受け止めてきた。その二人が今、こうやって至福そうに密着し合ってうたた寝をしている。ゾロにはそれが何よりも嬉しかった。
 徐にゾロは二人を起こそうと手を伸ばした。だが、起こすのがもったいないような、そんなロビンの可愛い寝顔を見、伸ばした手をピタ、と止め眺めだした。睫毛が長く、くるんとカールしている。漆黒の黒髪は、時折吹く風に靡き、さらさらと空に沿って踊る。悪戯な風のせいで、絹糸のような髪の毛数本が、薄く開いている唇に張り付く。その髪の毛が、ロビンの妖艶さを一際濃くしていた。
 フォアマストの椅子の部分に頭を凭れているせいで、ロビンの白い喉元が丸見えになっている。
 その、白い喉元がまたロビンを一層艶やかに見せる。唇を這わせれば吸い付くような、しっとりとした素肌。
 たまらない、とばかりにゾロはロビンのその首筋に、項に、そして唇に顔を近づける。ロビンへあと数センチ、というところで、ロビンの膝が動いた。……気がした。実際に身動いだのはロビンの膝元に寝転ぶチョッパーだった。
 ゾロは緩慢に首を下へと動かす。そこには寝ぼけているのか、視線が定まらないチョッパーがいた。だが目は鋭く、ゾロを射抜いている。野性の本能なのか、チョッパーはゾロを寝ぼけ眼ながらも識別しているようだった。その表情に苦笑を漏らし、チョッパーとロビンを優しく頭を撫でながら起こした。


「おい、起きろ。昼飯だぞ」
「んん……」
「あれ? ゾロか? …おれ、寝ちゃってたのか」
「アホ、チョッパーは本を読むなりすぐに寝てただろうが」
「え? 本当か? ……ゾロは何でそんなこと知ってるんだ?」
「ああ?」
「見てたのか? おれを? ロビンを?」
「バッ!!! 見てた訳じゃねェ!!」
「ふふ。さあ、お喋りはそこまで。急いで行かないと、ルフィにお昼ご飯を食べられちゃうわ」
「そ、そりゃ大変だ!! ゾロ、ロビン、急いで行こう!!」










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