novel : two

□夜空に佇む朗月*ZXR+ALL
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 夏島の季節は夏。三日前に着岸したサニー号。
 季節は夏だけあり、太陽が水平線へと隠れたあとも暑い熱気は消えることなく漂っている。
 連日催されていた島の夏祭りも昨夜で終了し、遠くに見える街はひっそりとしているのが望める。
 停泊したその日から祭りに興じていたクルーたちも、今夜は思い思いに過ごしていた。
 暑さ凌ぎにどうだ、怪談でもしないか、とウソップが持ち掛けたのが始まり。
 一部を除き、表情を険しくするクルーたち。まずは、サンジのボヤキから始まる。

「おれは夕飯の片付けあるんだぜ?」
「おれも船の修理を」
「私は海図を書きたいの」
「おれは薬の調合があるんだ」
「おれは眠ィ」
「私は参加するわ」
「えーーー!!?」
「本当に!!?」
「よし、ロビン、お前は素直でいい!! いいか、皆。船長命令だ!!」

 船長命令をの一声で全員参加を余儀なくされた。車座になり、中央には気分を盛り上げるための蝋燭が数本立っている。仄かな明かりが雰囲気を出している。
 だが、クルーはそんな雰囲気は諸共せず。船長命令をこんなくだらない事で…などと野次が飛び交う。が、当の船長は聞き耳持たずだ。
 例によって例の如く、ウソップがいつものように大袈裟に話をする。作られたであろう事は明らかな話。
 だが、チョッパーは信じ込み、恐怖に慄き、ゾロの背中にしがみ付く。
 ナミは隣にいたフランキーにすっと寄り添い、怖さを軽減した。
 それを対面で見ていたサンジは、「クソッ!! おれも」と隣にいるロビンに寄り添う。「大丈夫よ、コックさん。怖くない怖くない」金髪を梳かれながらそうあやされていた。
 ゾロはその光景を盗み見し、血を逆流させる。つい、羨ましくてサンジに「まるでガキだな。あやされてやがる」などと暴言を吐いた。
 当のサンジは、髪を撫でながらあやされているこの状態に至極ご機嫌で、ゾロの暴言など左耳から右耳へ一方通行だ。それがまた悔しいゾロは、ギロリと睨むしかなかった。
 ウソップの話が終わり、そういえばとルフィが口を開く。
「さっきのウソップの話で思いだしたんだけど…」
 と続いたルフィの怪談話は存外怖く、蓋を開けてみれば、チョッパーはゾロの顔面にしがみ付き、ナミはフランキーの大きな腕にコアラの様子でくっ付いていた。
 ウソップは常の通り、鼻水を垂れ流し、目からは湧き水のように涙が溢れ、頬を伝って流下していた。
 サンジは、灰が落ちるのも気にせず、ただ煙草をくわえているだけだった。眼球の乾きを防止する役目の皮膚は、その機能を果たしてはいない。
 ウソップもサンジも存外背筋がひやりとする感情に怯え、互いの間にいるロビンに、無意識に擦り寄っていた。
 ウソップはロビンの右腕に、サンジはロビンの左腕にそれぞれが己の腕を絡めている。恐怖の表れか、はたまた下心からなのか。否、下心はサンジのみに当てはまることだが。
 その光景に、真っ先に気付いたのは剣士だが、彼が口を開こうとするより先に、ナミの鉄拳がぶっ飛んだ。
 重く鈍い音が闇夜に響く。直後たんこぶを腫らせた二人の前に、仁王立ちする鬼がいた。赤鬼ならぬ、オレンジ鬼、か。

「あんたたち!ロビンにくっ付いて、何様なのッ!?ぶっ飛ばすわよッ!?」

 いやいや、既にぶっ飛ばしているだろう、などと突っ込みの言葉が世に出ることは絶対にない。他クルーたちの口の中で事切れる。

「ロビーーン、怖かったーー」

 そう言うなり、たんこぶを付けられた二人を退き、ナミはロビンに擦り寄った。
「そう、怖かったの。大丈夫よ」と言いながら、ロビンは鬼を宥めていく。髪の毛を優しく梳かれ、ナミはご満悦だ。目を閉じ、ロビンの指先を感じている。その口元は上がり、気持ち良さが表れている。
 羨ましすぎる。ゾロはじーっとその様子を、瞬きすら忘れるほどに食い入った。あわよくば、おれもロビンに…などと己の野望を心の中で膨れさせていた。
 ふと目を開けたナミと目が合った。ゾロはそれでもロビンから目を逸らせない。ナミはゾロの羨ましそうな目を察知し、悪戯心が沸き上がった。
 ナミは一層ロビンに密着し、腕を腰に巻き付ける。ロビンもそれに応え、ナミの頭を両腕で優しく包み込んだ。ナミはこれでもかというぐらいに破顔し、ゾロに見せつけた。
 青筋を立て、怒りを露にし、ゾロの面は般若の如く顔がつり上がる。
 そのとき、おれも、と今の今まで必死でゾロにくっ付いていたチョッパーが、ロビン目掛けてすっ飛んで行った。
 ロビンはチョッパーを胸で受け止め、周りからはどよめきが沸く。










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