novel : two

□自転車*ZXR
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 島が見えた。久しぶりの島だ。春島の季節は夏。湿気もなく、過ごしやすいことだろう。
 遠くに確認できる島を船首で見ていたナミとロビンは、二人で思いを馳せていた。

「ロビンはやっぱり遺跡を探すの?」
「ええ、そうね。結構な大きさがある島だから、なにか収穫があるかもしれないわ。航海士さんは?」
「私? 私はもっちろん服を買うわー。日焼け止めも欲しいのよね。あとは……」
「ふふ、ショッピングは楽しいものね」
「そうよ、女の性ね。ショッピングは。ロビンは? 服買わないの?」
「ええ、それよりやりたいことがあるの。遺跡を探し終えたら、それを一番にしたいわ」
「えー? 何々? 何をしたいの?」
「ふふ。内緒」
「えー? 教えてよ!!」
「あとでね」

 キャーキャーとはしゃぐ二人を、マストの裏で寝ていたゾロは聞き耳を立てていた。ロビンのしたいことが気になったのだ。
 遺跡しか頭にないと思っていたロビンが、なにかをやりたいと言う。
 なんなのだろう? 古本? いや、それはないだろう。やりたいことと言ったのだ。古本を買うのなら、そう言うだろう。ではなんだ? 
 瞼は閉じているものの、瞼の裏ではああでもない、こうでもない、と黙考していた為、眼球がころころと動いている。
 だが、思い浮かぶ筈もなく、ゾロは直接ロビンに聞いてみよう。と結論付けた。



 島へ到着し、錨を下ろす。留守番組を除き、皆意気揚々と上陸した。
 ナミはロビンへ宣言した通り、サンジとチョッパーを引き連れて買い物へと出掛けた。
 ロビンも遺跡を探す為、街とは反対の森へと出掛けていった。
 ルフィもウソップを伴い、冒険へと一目散に飛び出していった。
 結局、ロビンにやりたいことを聞き出せなかったゾロが留守番組。
 今日、明日にログが溜まる訳ではあるまい。遺跡探索が落着したら、ロビンに聞こう。
 そう安易に帰結し、一人マストに寄りかかり、午睡の花を咲かせた。



 帰船したナミが聞いたところによると、ゾロの思惑通り、ログが溜まるのは一週間かかるらしい。
 そこそこ大きい島だが、3〜4日で遺跡探索も一段落するだろう。その後はロビンと……。と多少顔を緩ませた。
 ゾロの身勝手な思い込み通りにことは運び、ロビンの遺跡探索は3日で終了した。
 歴史的に価値のあるものはなく、遺跡と呼べるものも皆無。
 朽ち果てた建物があったものの、それが歴史的に魅力あるものに変わるのは、まだまだ時を食らわないとならないだろう。
 ロビンは、多少の余韻を楽しみつつ、探索を終止した。



 4日目の朝食後、女部屋へと早々戻ったロビンに、“やりたいこと”を聞くため、ゾロはその扉を叩いた。
 無遠慮なノックにも拘らず、部屋からの返事はない。聞き耳を立てるが、部屋には人の気配がない。
 そこへナミが戻ってきた。聞き耳を立てていた状態のゾロは、苦虫を噛み潰した表情になる。
 ナミが目で訴えている。なにしてんの、このマリモは? と。その瞳の奥に宿る暗黒の炎を察し、ゾロは背筋を無意識に正した。

「コホン……。あ、あのよ、ちとロビンに話が……。べ、別に覗いてた訳じゃねェぞ? 部屋にいねェのか様子を窺おうとしてただけだ。変な風に取るんじゃねェぞ」

 しどろもどろに返答をし、ゾロは失敗した、と後悔した。その言動が既に怪しい。胡散臭いと思う筈だ、この女は。
 何かを言われる前に、ゾロはその場から立ち去ろうと機会を窺う。
 硬直して動かない右足を僅かにずらす。よし、いける。ゾロは意を決し、右足を大きく動かそうと腿を上げたそのとき。

「ロビンならもう上陸したわよ」

 直前に動かした足が、元の位置に戻ろうと懸命だった。そのせいで元の位置より随分奥に着地してしまい、結果足の踵が90度と、測ったように開く。
 まるで軍隊の整列のように。僅かに残っていた力を振り絞り、そうか、分かった、と答えた。
 この90度きっかりに開いた足をどうするか。考えても仕様が無い、ゾロはその右足を左足の後ろへと移動し、すぐさま身体全体を右へ向かせた。
 あとは左足を右足に倣い、そのまま行進するかの如く、天から引っ張られているかのように背筋を伸ばし、地面に引き寄せられるかの如く腕を伸ばし、ゾロは規律よく倉庫をあとにした。










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