novel : two

□運命の痕*ZXR
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 三連ピアスが風に靡き、シャララと鳴いている。
 ロビンは、そのピアスを凝視していた。
 それに気付いたゾロは、訝しげにロビンを見返す。

「何かおかしいか?」

 あまりにも凝視するロビンを異様に感じ、ゾロは声をかけた。






 まだ宵の口。夕食後の一時、各々好きなことをして過ごしている。
 ルフィとウソップとチョッパーは、ボードゲームをして、度々奇声を発している。相当面白いようだ。
 サンジは夕食の後片付けと朝食の仕込み、ナミは海図を描きながら、食後のデザートを食べている。
 デザートを早々食べ終わり、本を読んでいたロビンを、珍しくゾロが誘って甲板に出た。ゾロの手には酒の瓶と、グラスが二つ。
 今日は満月。月見酒と洒落こむようだ。
 話をする訳でもなく、静かな時が過ぎる。沈黙は金なり。いや、この二人には、金ではなく至福なり、だ。
 風が二人を覆う。ロビンの頬に張り付いた数本の髪を、ゾロは武骨な指でそっと拭う。風さえも、二人には一つの小道具だ。
 ロビンはゾロを射る。淡青色がかった漆黒の瞳で。
 その時、また風が吹き抜ける。ゾロの三連ピアスが風に乗って鳴く。
 そこで冒頭に戻る。

「何かおかしいか?」
「おかしくはないわ。あなたも気付いていないみたいね」
「? 何がだ?」
「ね、耳に穴を開けると運命が変わるって知ってる?」

 質問に質問で返されたゾロは、面倒臭そうに知らねェ、と、素っ気なく答えた。

「あなたは三つも開けてるから、三回運命が変わったわ。そう感じる時はある?」
「ねェ」
「即答ね。ふふ、あなたらしいわ」
「俺の質問に答えてねェ」

 酒瓶から直接口をつけ、こくりと煽りながら、ゾロはロビンに先程の答えを催促した。

「そうだったわね。…ね、私の右耳を見て」

 言われるがまま、ゾロは目を凝らす。
 形の良い耳だ。耳朶はぷっくりとしていて、今すぐ啄みたい衝動に駆られる。
 だが今はそんな状況じゃない、他のクルーも起きてる、とゾロはロビンに気付かれないように頭を振り、耳に集中した。
 よく見ると、耳朶に何やら痕らしきものがある。少し窪んでおり、本当に目を凝らさないと見えない程度の、小さな小さな痕。
 普段だったら、気にも止めないような。現に、言われるまで分からなかった。その痕がどうしたと言うのだろう。

「ああ、あるな。極小せェ痕があるが、これのことか?」
「ええ、そう。それよ」
「これがどうした? 運命とやらと関係あんのか?」
「あら、分からないの?」
「は? 何がだ?」
「……これはピアスの痕よ」
「な! お前、ピアスなんかしてたのか? 見たことねェ」
「そうでしょ。ビックリした?」
「ビックリっつーか…」
「まだ一人で生きていた頃、つくづく生きるのが嫌になって。その時乗っていた海賊船の一味にピアスを教えてもらったの。そして、開けてもらったのよ」

 さらりと言うロビンだが、ゾロは心中穏やかでいられる筈もなく。
 開けてもらったと言うからには、開けた人物がいる訳で。
 ロビンの耳朶を触り、穴を開けた。それを想像するだけで、表現できない感情が目覚める。
 その時すでに、ゾロは嫉妬という波にのまれていた。
 そんなゾロに気付かず、ロビンは話の続きをし始めた。

「痛かったわ。でも、これで運命が変わる、そう信じて疑わなかった」
「……それで?」

 いつにも増して声色が低いゾロに、ロビンはやっと気付いた。

「あ、ピアスの穴を開けると運命が変わるって教えてくれたのは、女船医さんよ。もちろん、開けてくれたのも彼女」

 安堵の溜め息をついたゾロ。次いでロビンも安堵の溜め息をついた。
 二人は見つめ合い、ぷ、と笑い合った

「で、運命は変わったのか?」
「変わったと信じているわ。その後すぐにバロックワークスに入ったから」
「…それじゃ悪い方に運命が動いた…って訳だ」
「そうね。でもそれがあったからこそ、あなた達に出会えたわ」
「…まあな」

 ゾロは思い出していた。その頃のことを。










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