novel : two

□キスさせろ*ZXR
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 ここ最近、いつもこうだ。ゾロの行動に見境がない。
 その要因を作っているのはロビン自身。
 だが、その要因はロビンには飲めない要求だった。

 昼下がりの甲板。デッキチェアに座り、読書にのめり込むロビン。文字を食べるように脳へと叩き込む。
 その至福の時を、ある男の声で中断させられた。
 ズボンのポケットに両手を突っ込み、前屈みになっているゾロ。その顔は、ロビンの顔から10センチも離れていない近さであった。

「なあ、キスさせろ」
「嫌よ」
「いいじゃねェか。減るもんでもねェだろ、な?」
「嫌よ」
「チッ、焦らすな。我慢出来ねェ」
「あなた、それしか頭にないの?」
「ねェ(どーん)」

 ロビンはあからさまに溜め息を吐く。が、ゾロにはその溜め息に皮肉が込もっている事など微塵も感じない。
 その様子を見遣り、ロビンは思った。もう少しロマンチストなら…と。

「とにかく嫌よ」

 読みかけの本を閉じ、キッチンへと向かう。
 ゾロは踵を返したロビンの腕を掴もうと手を伸ばす。が、ロビンはそのゾロの行動を予測していた。
 ゾロの胸に花を咲かせ、ロビンに伸ばしたかけたゾロの腕を掴み返す。
 そのままロビンは振り向きもせずにキッチンへと向かった。
 残されたゾロは、ニヤリと口元を上げ、ロビンの背中を見遣る。

「焦らしやがる。そこがまたそそるんだがな」

 そう独り言つ。

「アンタバカ?」

 声の出所の方を向くゾロ。そこには、蜜柑の手入れ中のナミがいた。

「けっ、覗き見かよ。悪趣味だな」
「しょうがないでしょ。不可抗力よ。それより…アンタ、キスさせろ、はないでしょ?
 サンジくんがここにいたらアンタ蹴られてたわね」
「…かもな。だが、焦らすあいつも悪ィ」
「だからバカだって言ってんの。ロビンは焦らしてるんじゃないの。ちょっとは女心を考えなさいよ」
「ああ? んなめんどくせー事してられっか」
「あそ。それじゃアンタはロビンと一生キスは出来ないわね。ま、それもいいんじゃない?」
「…ちと待て。教えろ。女心」

 踵を返すナミをゾロが必死に止めた。

「いいわ。お礼は如何程?」
「酒だ、酒」
「OK。手を打ちましょ。
 いい? 女はロマンチストなの。雰囲気を作らないとその気も起きないのよ」
「雰囲気? んなめんどく…いや、続きを聞かせろ」
「だからね、ロビンをその気にさせないといけないの。
 まずはワインで乾杯して、次は…そうね、夜景を見ながら語り合う。お前が好きだとか、愛してるとかさ」
「バッ…!! んな事言えっかよ! この俺が! 第一夜景なんざこの船でどうやって見んだよ」
「うっ…。だから夜景じゃなくてもいいのよ!! 月だっていいの!! そこで甘い言葉を言うの。それで決まりよ」

 訝しげな目付きでナミを見るゾロ。その目は本当か? 本当にそれで堕ちんのか? と問うている。
 当たり前よ、任せなさいと自信ありげに目で答えるナミ。

「…よし、やってみる。決行は今夜だ」

 その夜。ゾロは計画通りにロビンを甲板に呼び出した。
 ナミからの指令が伝わったのだろう、サンジが特別に用意したワインとグラス二つを手にロビンを待っていた。

「…」
「おいおい、何だよ、その目は。座れよ。とって食いやしねェって」
「…」
「まずは座れ」

 ロビンは怪訝な顔をし、ゾロの真向かいにちょこんと座った。表情はまだ崩さない。目は訴えている。何をしても無駄よ、その気は更々ないわ。と。
 そんな頑ななロビンをよそに、ゾロは機嫌良くグラスにワインを注ぐ。計画通りいつもはらっぱ飲みが基本のゾロ自身にもグラスにワインを用意する。

「ほれ」
「…有難う」

 素直に受け取るロビンを見遣り、自身の計画が順調な事を確認する。

「何に乾杯?」
「んじゃお前に」

 ロビンは吹き出しそうになるのをポーカーフェイスで何とか堪えた。
 おかしい。ゾロが言う言葉ではない。
 ゾロの態度がおかしいのだ。あのゾロが、グラスで酒を飲んでいる。その酒は常からは考えられないワイン。しかも乾杯の音頭つき。

「月が綺麗だな」
「…今夜は曇りだから月は見えないわ」
「!!…その雲の上にある月が綺麗だな」
「…ええ、全くね」
「その月より、俺には…その…あの………お、お前の……方が………」
「どうしたの?」
「いや、何でもねェ」

 これは明らかにおかしい。ゾロの顔が茹でダコのように真っ赤だ。










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