novel : two

□後悔値計測不能*ZXR
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 春島、季節は夏。
 過ごしやすい島に、停泊中の麦わら海賊団ご一行。
 その季節柄か、クルーも皆陽気だ。
 それぞれが、それぞれの用を足そうと、上陸の算段を始めていた。
 ゾロはいつもの通り、甲板で寝ている。芝生に寝転がり、目を瞑っている。
 不意に目の前が影になり、薄暗くなった。

「ね、剣士さん。お買い物、一緒に行かない?」

 目を薄ら開けると、そこには黒真珠のような瞳が零れていた。

「ああ? メンドクセー。チョッパーがいんだろ。あいつ本買いたがってたぞ」

 ゾロは、然も眠たいんだよ、起こすんじゃねェと言わんばかりに仏頂面を決める。

「そう。分かったわ。起こしてごめんなさい」

 三連ピアスがチャラと嘆く。ああは言ったが、内心複雑だった。
 あんな言い方しなくともよかったよな…と、ほんの一握りの後悔が、胸中を圧迫し始めた。
 その一握りの後悔が、倍に、いや、何百倍になるとは、今のゾロには知る由もない。

 ロビンの靴音が遠ざかる。
 カツンカツン。
 ゾロの後悔は、それで二握りになったようだ。
 眉間の皺が先程よりも深くなっている。
 どうするか。今起き出せば、ロビンは喜ぶだろう。やっぱり一緒に? と、腕を絡めてくるだろう。
 唸る。今ので、後悔は十握りにアップだ。
 その時だ。ゾロの後悔が一気に百握りになる、悪魔の一声が鳴った。

「ルルォォロビンちゅわーーん、お買い物行くのーー? なら、僕とご一緒しませんかーー?」

 !! な、何っ!? 目がカッと見開く。その目が、まるで生きている金魚の如く、左右上下に泳ぎまくる。ゾロは相当動転しているようだ。
 その後の会話が気になる。全神経を集中し、耳を澄まして様子を伺う。

「コックさん、ごめんなさい、船医さんが…」
「チョッパーならルフィと出掛けちゃったよ?」
「え? 本当?」
「うん、ナミさんもウソップとクリマ・タクトの材料見に行っちゃったし。ねぇねぇ行きましょうよーー」
「そうね、それじゃお付き合いくださる?」
「喜んでっ!!」
「すぐに支度してくるわ。待っていてね」
「了ーー解、ロビンちゅわん。
 ……おいマリモ!! 俺とロビンちゅわんはこれからデートをしてくる。お前はフランキーと仲良く留守番をしとけ。分かったか?」
「…」
「寝てんのか? まぁいい。フランキーもいるからな。さっロビンちゅわーーん、行きますよーー」

 下船する二人を横目で見遣る。
 ゾロは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
 一握りの後悔が、百握りになるとは思いもよらなかった。
 言い訳になるが、眠かった。瞼が今にもくっ付きそうだった。
 ロビンと出掛けはしたかったが、昨夜の見張り時、ロビンと抱き合い、その裸体を貪った。
 そして、情事後の艶かしい寝顔を、朝日が昇るまで眺めていたのだ。
 涙が出る。チキショー!! こんな事になるなら、眠かろうが、瞼がくっ付こうが、無理をしてでも一緒に行くんだった。
 もう眠気などない。そんなものは疾うに吹っ飛んでいる。深い溜め息を吐く。
 俯き、背を丸くして後悔しているゾロを見、フランキーは見兼ねてゾロに言った。

「おいおい、後悔先に立たずだぜ? ま、身から出た錆だがな。そんなに気になるなら行ってこい。留守番はオレに任せな」
「ああ? んなこたねェ。だが、そこまで言うんだったら、出掛けてくる。後は頼んだぞ」

 梯子など必要ないとばかりに、ひらりと船から降り、瞬く間に走り去るゾロ。

「おいおい、街はそっちじゃねェだろ…。
 ったく方向音痴に素直じゃねェときたもんだ。始末に終えねェ野郎だぜ」

 フランキーは口元を上げ、ニヤリと笑んだ。










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