novel : two

□賽は投げられた*ZXR
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 日付がもうすぐ変わろうとしている。
 今日の見張りはゾロ。
 酒瓶を片手に持ち、くいと煽る。手の甲でぐいと口を拭う。
 夜空はどんよりとし、まるでゾロの心を映しているようだ。
 ゾロは苛ついていた。
 原因は、未だ明かりがついているキッチン。
 耳を澄ますと、微かに聞こえる男と女の話し声。
 男は朝食の仕込みをしているのであろう、サンジ。
 女は眠れないからコーヒーを飲んでいるのであろう、ロビン。
 それの何がゾロを苛つかせるのか。
 理由は簡単だ。ゾロはロビンが気になっていた。
 敵だったロビンの警戒を解かないゾロは、視線を常にロビンに合わせていた。
 その警戒の視線が、いつの間にか違う意味合いを持つようになったのだ。
 それは、ゾロ本人にも分からない速度で。そろりそろりと。
 気が付いた時には既にロビンに嵌まっていた。
 他のクルーと楽しそうに話している姿に苛立ちを覚える。
 ロビンはゾロとは話さない。多少の会話はする。だがそれはほぼ戦闘時だ。
 それ以外は決してゾロとは話さない。ゾロの範囲内にすら入らないのだ。
 それがゾロの苛立ちを更に増す要因であった。
 極めつけが、夜半のキッチンのいつまでも消えない明かり。
 ゾロは知っていた。キッチンの消えない明かりが今日だけではない事を。
 毎夜鍛練を欠かさない彼にしか知り得ぬ事だ。

――何話してる? コックとは喋るくせしやがって、何で俺とは喋らねェ? 苛々する

 キイ…

 キッチンの扉が開く。
 ゾロは音の出た方へ見遣る。
 サンジが見張り番の為の夜食を持っている。その後にロビンが。
 二人は微笑み合っているようにゾロには見えた。

「おい」

 ゾロが二人に声をかける。
 二人は一斉に見上げる。

「おうマリモ。寝てねェのか。感心だな」
「うるせェ」

 言い争いとも取れる会話。喧嘩腰なのはいつもの事だ。それがこの二人には普通の会話なのだ。

「私はそろそろ部屋に戻るわね」

 その言葉はサンジに言ったものだと容易に分かる。
 ロビンは一瞬ゾロを見遣ったが、直ぐに視線を戻し以降は全くゾロを見ていないからだ。
 ゾロは下唇を噛んだ。

――畜生何だってんだ

「あ、待ってロビンちゃん。これ、能力でマリモに届けてくれる?」

――クソコック!! 傷に塩をすりこむ真似しやがって! そいつがんな事する訳ねェだろうが

 だが、ゾロの予想は違っていた。

「…いいわ」

 ロビンが両手を胸の前で交差する。手が見張り台まで生える。
 サンジから受け取った夜食を器用に運ぶ。
 瞬く間にゾロのいる見張り台まで届く。

「有難うロビンちゃん。助かったよ。それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」

 サンジが男部屋へ消える。
 ロビンは困っていた。
 能力で咲かせた手から、未だに夜食の乗ったテーブルが離れないからだ。
 訝しげに見張り台を見上げる。
 座っているのだろう、ゾロの表情を、ロビンは確認出来ない。
 どうしたらいいのか困っていたその時。
 ロビンは夜食の乗ったテーブルを落としそうになった。
 ゾロがロビンの分身の手首を掴んだのだ。
 目を瞑り意識を集中するロビン。

「よお、こっちこいよ」

 不意に真上から声がかかる。

「その前に、テーブルを受け取っていただけるかしら」
「こっちにくるんだったら受け取る」










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