novel : two

□貪欲、嫉妬。*ZXR
1ページ/3ページ

 きっと敵わない。若さ、可愛さ、可憐さ、素直さ…。
 私にはないものばかり持っている航海士さんが、本当にうらやましい。

 午後のひととき、私の楽しみは読書。この頃、もう一つ楽しみが出来た。
 この船で鍛練、睡眠を繰り返す彼。眺めていると、自然に顔が綻ぶ。
 ほとばしる汗。盛り上がる筋肉。汗を拭く、清々しい表情。
 どの表情も、脳裏の記憶を司る海馬へと収納していく。私だけの秘密。私だけの特別な時間。

 それがいつ頃からか、彼の傍らに彼女の姿が。オレンジ色の髪の毛を持った、可愛い航海士、ナミ。
 彼の傍らへ、意図も簡単に寄り添い、語らっている。
 羨ましい。私も…と思わずにはいられない。
 だんだんと息苦しくなる。脈拍が上がり、心臓が悲鳴を上げている。
 見たくない…彼と彼女の姿を…!!

「ロビン? どうしたんだ? 苦しそうだぞ?」
「船医さん…大丈…夫…よ」

 あ…目眩…がす…る…。
 駄目ね…。こんな…事で…。意識…を保て…な…い…。

 ガタタッ!!!

「ロビン!? ロビーーーン!!」
「どうした!? チョッパー!!」
「ロビンが倒れたーーー!! 医者ーーー!!
 って、医者は俺だー! サンジ! ロビンを部屋へ運んでくれ!!」
「何!? どうしたの!? ロビン!?」
「おい!! チョッパー!! どうしたんだ!!」
「ゾロもナミも事情は後だ! サンジ! ロビンを頼む!」
「分かった!!」
「俺がやる!!!」
「あ〜!!? マリモ! 邪魔だ! どきやがれ!!」
「ちょっと! 今は言い争いしてる場合じゃないでしょっ!?
 サンジくんはロビンが目覚めた時のために、温かいスープを作っておいて!!」
「はい! ナミさんっ! マリモ! 丁重に扱えよ!?」
「テメェに言われなくとも! チョッパー! 行くぞ!!」
「よし! そっとだぞ!!」
「ウソップ!! 女部屋の扉開けろ!!」
「わ、分かった!!」



 ここは…?
 私、意識を…?

「ロビン! 目が覚めたか? 気分はどうだ?」
「胸が…痛い…」
「うん、不整脈だな。慢性じゃなく急性だから問題はないと思う。今はとにかく横になってろよ?」
「有難う…船医さん…」
「…大丈夫か…?」

 !!!
 ゾロ…? ゾロが…傍にいる。
 ああ…胸が高鳴る。
 先程の痛みとは違う、淡い痛み。

「ロビン? また不整脈の症状が…」
「おい、チョッパー、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だと思う。ロビン、まだ痛むか?」
「大丈夫」
「そうか。また痛むようならすぐに俺に言うんだぞ?」
「分かったわ。名医さんの仰る通りに」
「バカヤロ! 誉められたって嬉しかねェぞ! このヤロガーっ!!」

 船医さんの小躍り、久しぶりに見たわ。本当に嬉しそう。

「ゾロ、俺、抗不整脈薬を調合してきたいんだ。ロビン頼めるか?」
「お安いご用だ」
「よし、頼んだぞ。ロビン、安静にしてろよ?」
「分かったわ」

 ポテポテと女部屋からチョッパーが去っていく。
 残されたのは、私とゾロ。何を話したらいいのか分からない。
 目を瞑る。彼が横にいると思うだけで顔か綻ぶ。
 だけど今は駄目。そんな表情を見られる訳にはいかない。
 私のこの淡い想いを知られる訳にはいかない。

「…あんま心配させんな」
「え?」
「…ったく、心臓が飛び出るかと思ったぜ」
「…ごめんなさい…」
「謝る必要はねェ」
「ごめんな……さい」
「…お前になにかあると、何も手につかなくなる。頭が真っ白になる。だから…」

 剣士さんは何を言っているのだろうか。私には真意を計り兼ねる。期待する自分がいる。
 この人は残酷だ。期待させ、奈落の底へと引き摺り降ろすのだ。
 それでも私がゾロを好きという感情は変わらない。だけど…残酷過ぎる。

 残酷…?

 私が残酷なんて言える立場?。今までの20年、私自身残酷だったのでは?
 人を殺めるなんて日常茶飯事。私自身、暗に手を染め、この手はもう紅く染まっているでしょう。
 だのに、この言い種。お門違いも甚だしいわ。

「ど、どうした!? 何で泣くんだ!? 俺、何かしたか!?」
「いいえ。何も…」

 何もしていないわ。だからあなたは質が悪い。
 罵り、罵声を浴びせ、蔑んだ眼で私を見下してくれたら楽なのに…。
 涙が止まらない。









次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ