novel : two

□星夜*ZXR
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 目がパチリと覚めた。
 別に怖い夢を見たとか、不安だとか、そういう感情はない。
 ただ本当に目が覚めたのだ。

 久しぶりの島に停泊し、その日の内に一通り島内を散策した。
 ロビンは歴史に関わる物がないか探したが、あいにく欠片も見つからなかった。
 そしてその日の夜。
 日付が変わった頃だろうか。
 突如、理由もなく目が覚めたロビンは、甲板に降り立った。
 ふと見上げた空は、星が輝き、手に届きそうだ。
 顔が綻ぶ。
 その斜め横を見る。
 見張り台からは大きな鼾が聞こえる。
 時たま寝言だろう、肉、肉と言っている。
 仕様のないルフィ。寝てもお肉は忘れられないのね、と、ロビンは苦笑した。
 さあ寝ようか。自身に問い掛ける。
 だがロビンは眠りを欲していないようだ。
 さてどうするか。
 ロビンは腕を組み、右手を右頬にあて、毎度のお悩みポーズを取る。
 せっかくの良い星夜。
 少し散歩をしよう。
 思い立ったそのままの姿で船をそっと降りた。
 港を歩く。
 まだ明かりがついている店屋がある。
 飲み屋だろう、ガヤガヤと話し声が聞こえる。
 飲み屋を通り過ぎ、少し進むとそこに果てしなく続く砂浜が現れた。
 波打ち際に寄り、そっと一歩を踏み出す。
 ザザっと波がロビンの足元を舐める。
 少し目眩が起こる。
 悪魔の実の能力者。
 食べた者は海に嫌われる。
 ロビンは悪魔の実の能力者だ。
 海はロビンを死へと誘う。
 この時ほど能力者の自身が怨めしく思った事はない。ロビンは知らずに溜め息をついていた。
 何を思ったのか、ロビンは足をまた一歩進める。
 今度も目眩が襲う。
 だが、ロビンはまた足を一歩進める。
 その時、ロビンは腕をグッと掴まれ、砂浜へと戻された。
 その手の持ち主を見遣る。
 緑頭の剣士、ゾロだった。

「何してんだ」
「どうしたの?」
「阿呆、それはこっちの台詞だ。お前は能力者だろうが」
「そうなのだけど…」
「だけど何だ」

 俯くロビン。何やら言いにくそうに、もじもじしている。
 その容姿があまりにも可愛かったので、ゾロの頬が緩む。

「何柄にもなくもじもじしてやがる」
「あら、柄じゃなくて悪かったわね」

 腕を振り払い、ロビンはすたすたと砂浜を歩き始める。
 その後を追うゾロ。

「ハハ、悪ィ。からかったんじゃねェ。あんまり見ねェ態度だったからよ、珍しくて」
「…意地悪ね」

 ハハ、悪ィ、と気にもしないゾロを横目で見遣り、ロビンは立ち止まった。
 遠い海の水平線へと目を向ける。
 ゾロもロビンの目線を探し、水平線へと向け、直ぐにロビンへと戻す。

「で?」

 ゾロは何故ロビンが海に足を踏み入れたのか、理由が知りたかった。
 ロビンがゾロに視線を戻す。

「笑うから言わない」
「ハハ、ガキみてェな事言いやがる。いいから言えよ。笑わねェからよ」
「…海に挑んでみたの」
「ハァ?」
「…顔が綻んでいるわよ? やっぱり笑うんでしょ」
「クク、笑わねェよ」

 既に多少笑いを溢したゾロ。説得力は皆無だ。
 だが、ロビンは話を続けた。

「海に挑んだの。私は能力者だけど、あなたには屈しないわって。負けないわって」
「で、勝ったのか?」
「結果は引き分けね。邪魔が入ったから」
「ああ俺か」
「そ。でも、勝ち負けはないわね」
「何で?」
「私は負けないもの。海では死なないわ」
「だが、航海中に、万が一落ちたら死ぬだろうが」
「あら、死なないわ。あなたがいるもの」

 にっこりと微笑むロビン。
 その表情をまともに見たゾロは、顔を赤くしそっぽを向いた。
 照れ隠しの癖、頭をガシガシ掻く。

「…当然だ」

 ロビンには十分だった。その言葉だけで心が温かくなる。
 スルッとゾロの左腕に自身の右腕を絡める。

「さ、帰りましょ。さっき飲み屋さんを見つけたの。そこでお酒を買って帰りましょ。船で星見酒よ」
「おう星見酒か。風情だな」

 腕を絡めた状態で、手を握るゾロ。繋げた手を愛おしくギュッと握る。
 それに答えるかのように、ギュッと握り返すロビン。
 星夜の下で、寄り添い歩く二人。

 星々は見ている。

 幸福な二人を。

 星々は照す。

 二人の永遠を。






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