novel : one

□闇夜に浮かぶ蒼白い月*ZXR
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 今、一番欲しい物がある。欲しくて欲しくて堪らない。
 どうにかして俺の物にしたい、ただそれだけが俺の頭を支配する。



 それは、黒真珠のような。

 それは、漆黒の闇のような。

 それは、闇夜に浮かぶ、蒼白い月のような。



―――ロビン



 そいつの事を考えるだけで、他の事は身に入らない。
 一人になる夜は、どうしても頭の中が、そいつで埋め尽くされる。
 頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。


 畜生、考えれば考える程、手に入れたくて手に入れたくてどうしようもねェ…!!
 何も手につかなくなる。ああ、もう末期だぜ。
 寝ても覚めてもあいつの事が気になって仕様がねェ…!!



 いつだか、ロビンに聞いた事がある。お前の事が知りたい、と。

「あなたには関係のない事よ」

 あっさりと否定された。心臓に杭をぶち込まれた思いだった。
 だが、不思議と意気沮喪はしていない。
 何としてでも手に入れてやる、その自信があるからだ。




 眠れねェ。
 甲板に出て深呼吸する。眠れない夜は、決まって鍛練をする。
 その時だけ、邪心を振り払える貴重な時間だ。

「トレーニングなの?」

 見張り台から、突如問いかけられる。
 手からダンベルを落としそうになった。焦った。心臓が飛び出るかと思った。
 今の今まで頭の中で、俺を支配していた女の声。低音で、それでいて甘く脳に直接響く声。
 邪心を振り払うどころか、まとわりつくのを心地良いとまで思わせる。
 ロビンのすべてが俺を狂わせる。
 心の乱れを悟られぬよう、一呼吸する。

「まあな。今日はお前ェが見張りか」
「変わってもらったの。どうにも眠れなくて」
「じゃあ俺と一緒だな」
「あら、あなたも?」
「まあ…な。……そっち行ってもいいか?」
「どうぞ。お酒はないけど、コーヒーはあるわ。剣士さんも飲む?」
「ああ。いただく」

 そう言い終わるな否や、キッチンから幾重にも生えた手が、器用にカップを見張り台へと運ぶ。
 俺も意を決して、ロビンの元へと踏み出す。

「はい、どうぞ」
「…サンキュ」

 ロビンに注いでもらったコーヒーを一口啜る。苦い。しかし、ロビン好みのコーヒーの濃さ。
 それを飲んだ俺は、少しロビンに近づいた気がして、それだけで嬉しかった。

「邪魔しちゃったかしら?」
「ん? 何がだ?」
「声をかけてしまって。トレーニングをするつもりだったのでしょう?」
「ああ、問題ねェ。鍛練はいつでも出来る」
「そう? 良かった。誰かとお話したかったの」

 その一言が俺には引っ掛かった。誰かと、そうロビンは言った。
 俺じゃなくても、例えばコックでもルフィでも、言葉通り誰でも良かったのか。
 沸々と泥々した感情がわいてくる。
 思い通りにならないもどかしさ。
 誰でも良いという事に対しての嫉妬心。
 目の前にいるのに触れられない苛立ち。

「剣士さん? どうしたの?」
「何でもねェ」
「そう? 難しい顔をしているわよ?
 悩みがあるなら話してみない? あなたよりも幾年かは多く経験を積んでるわ。
 助言くらいはできるかも」







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