novel : one

□Present For You*ZXR
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 春島に停泊して三日目。日中は鍛練、昼寝で忙しかった俺だが、夕飯後寝るに寝れず、こうやって街に出た。
 正直言うと、つまらなかった。あいつが居れば、のんびり酒でも煽るところだが、メインのあいつが居ない。
 この島は歴史上有名な島のようで、あいつは発掘に夢中。俺の存在なんか無視だ。無視。
 朝は早く、夜も遅い。女一人じゃ危ねェし、ついてくっつったら、あの女『大丈夫、あなたは自分の好きな事をして』と言いやがる。
 自分の好きな事だからついてくっつったのによ。
 チッ考えても仕方ねェな。



 この島は陽気だ。熱気もあるし、活気に溢れている。ただ歩っているだけでも飽きない。
 右には女物の服屋。すげぇ過激そうな服がえらい沢山置いてあんな。胸んとこの布切れが少なくねェか!?
 長い丈のスカートも変な所に裂け目がある。何だ? あの服。
 しかし…ああいう服、あいつも着るのか?


 左を見ると、石鹸やらシャンプーやらが置いてある。よく見ると、化粧品も所狭しと陳列されている。
 そういえば、あいつの唇はいつもほんのり色づいてるよな。紅でも付けてんのか?
 形のいい唇、ぷるんとした弾力。ぱくりと俺の唇を啄む……やべェ。考えるな、俺。
 気持ち前屈みで歩く。


 少し進むと、靴屋があった。踵が高ぇ靴が種類豊富だ。ピンク色のサンダルが目に入る。あいつに似合うだろうな。キユッと締まった足首に。
 ……だから考えるな、俺。


 その隣の店は花屋か。おっ、白いユリか。あいつに似合ってるな。買って行くか?
 …って、俺あいつの事ばっかし考えてるじゃねェか! らしくねェ。柄じゃねェ。本人が居ねェのに、俺の頭ん中はあいつで一杯だ。
 ったく、らしくねェ!


 ふと前方を見ると、アクセサリーを売っている店に目がいく。店先に飾ってあるアクセサリーに釘付けになった。マネキンが付けている真っ黒のネックレス。
 リボンか何かで出来ていて、リボンの中心には透明なキラキラした宝石がついている。リボンは幅が広く、3〜4センチはあるか?
 あいつに似合うだろう。漆黒の髪、大きな瞳、紅を付けたぷっくりした唇。
 似合うどころの騒ぎじゃねェ、このネックレスはあいつが付けるべきなんじゃねェのか、とさえ思った。
 店先で自問自答を繰り返す俺を、不信がる様子もなく、微笑みなが店員が話し掛けてきた。

「気に入りました?」
「いや、そういう訳じゃねェが、あのネックレス…」
「あの商品はネックレスではなく、チョーカーと言います。ネックレスは首に掛けますが、あの商品は首に付けるのです。
 ようは、チョーカーの方が長さが短いのです。愛する女性に贈るのですか?」
「いや、買いたいのはやまやまだが、金がねェ」
「あの宝石はキュービック・ジルコニアで、簡単にご説明致しますと、人工石です。宝石ではございません。ですのでそんなに高額ではありませんよ」
「…で、いくらだ?」
「6000ベリーと値札に書いてありますが、この商品はあなたに買われたがっております。2000ベリーで如何でしょうか」
「よし、買った」
「有難う御座います。贈り物ですね。今お包み致します」
「いや、いい。そのままでいい」
「かしこまりました」

 ――買っちまった。なけなしの金で買っちまった。

 こんなのは俺じゃねェ。俺はこんな事はしねェ。
 らしくねェ。阿呆だ。俺は阿呆だ。

 しかし気分は最高だ。身体が宙に浮かぶようだ。地に足がつかねェ。
 女なんかに贈り物なんざ、生まれて初めてだ。贈りたいと思った事も初めてだ。何もかも初めてだ。
 あいつ、どんな顔するだろうか。渡すのが楽しみだ。顔が自然と綻ぶ。
 足取り軽く帰路についたが、帰船できたのは日付が変わろうとした頃だった。





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