novel : one

□A beloved person*ZXR
1ページ/2ページ


 夜の甲板は寒々しい。日中は騒々しいのに、漆黒の闇に包まれた今は、そこにある何もかもが飲み込まれそうな錯覚を覚える。
 私は眠れなくてここに降り立った。
 はぁと息を吐くと白く濁る。冬島が近いのかもしれない。
 見張り台を見上げる。今日の見張り番はルフィ。夕飯時、夜食のメニューをあれこれ注文し、コックさんに怒鳴られてたっけ。思わず、笑みが零れる。
 アラバスタの死闘がもうずっと前の事のように感じる。
 私はルフィに生かされた。それは棄てられない事実。生かされ、何が出来るのか自分に問うた。答えは見つからなかった。
 でも、今はこんなにも真っ直ぐに、前を向いて生きている。
 生かしてくれたルフィ、私を見守ってくれているクルーたち。そして、いつも傍にいてくれる、あの人のお陰。

 鼾が聞こえる。ルフィだから大丈夫だとは思うけれど、一応毛布を差し入れておこう。
 花の手で倉庫から数枚の毛布を持ってくる。それを手に、見張り台へと登る。

 ぐがーぐがー

 あらあら。お腹をだして、仕様のない船長さんね。花ではない、私の手で服を正し、毛布を掛ける。
 一瞬だった。
 毛布を掛けた私の右手を、ルフィに掴まれた。

 !!!?

「あ〜何だ〜、ロビンかァ〜〜。焦ったぞ〜?」
「ごめんなさいルフィ。起こしちゃったかしら?」
「いや、いいぞ。寝てるの見っかったら、ナミやサンジに怒られっからな〜」

 ふあ〜と欠伸をするルフィ。この子のどこに『力』があるのだろう。私は不思議で仕様がない。

「ロビンはどうしたんだ? まだ朝飯じゃねェよな?」
「クス。そうね、朝御飯にはまだ遠いわ。私は…眠れなくて、月を見にきたの」
「何だ、寝れねェのか」
「そう。少しここにいてもいいかしら?」
「ああいいぞ。寝れねェのは辛いもんな」
「辛くはないのよ。いつもこうだから。でも、この船に乗ってからは、ずいぶんよく寝れるようになったのよ」
「そうか。そりゃ良かったな」

 今言ったのは本当のこと。以前の私からは考えられない。熟睡して寝れたのはいつだったか、思い出せない。20年は長い。それがどうだろう。この船は私の苦悩の20年を意図も簡単に払拭してくれた。
 こんなにも穏やかな自分が、何だか怖い。

 キィ…

 音の出所を見ると、男部屋に続く扉が開いた。緑頭が見えた瞬間、咄嗟に自分の意思に関係なく、本当に反射的に身を隠した。

「? どした? ロビン」
「いいえ、何でもないの」
「なァロビン。」

 私はルフィの傍らに、両膝を崩して座った。

 キィ…

 気がつかないで、また男部屋に入っていったみたいね。悪い事をしてるつもりはないけれど、無用な心配はかけたくない。私はルフィに気がつかれないように、ホッと胸を撫で下ろした。

「なあに? どうしたの? ルフィ。子守唄でも歌って欲しいの?」
「お前、失敬だな。子供扱いすんな」
「あら、ごめんなさい」

 ふふ。私からしてみると、あなたは十分に子供だわ。口には出さないで、心の中で呟く。
 その時だ。思考がそこでぷつりと止まった。
 ふわりと何かが私に覆い被さったからだ。

「なァロビン。お前、寝れねェんだろ? だからこうしてやるよ」

 抱き抱えられ、横にさせられた。隣を見ると、ルフィがこちらを向き、寝そべっている。
 何の事はない。腕枕をされているのだ。ルフィの右腕を枕に、左腕は私の右肩に。
 私はルフィに包まれている。

「ちょ…ルフィ?」

 少し抵抗してみるも、ゴムに阻まれ、益々ルフィの腕にすっぽりと収まってしまった。

「ロビン温けェ。気持ちいィな〜。お前もこっち向いて、俺に引っ付け。ほら」

 ルフィの足と私の足が交互に合わさる。ルフィと私の隙間が、完全に無くなり、身体全体が密着した。
 ルフィの顔を見上げる。ニカッと微笑まれた。毒気を抜かれた思いだ。良かれと思っての行動だろう。
 今日くらいは甘えようか。
 あの人とは違う匂いがする。子供の頃に牧草をベットの代わりにして寝たことがあったが、今の匂いは正しくそれだ。太陽を存分に吸収した、乾いたその匂い。温かい。
 その匂いに包まれて、いつしか、私もルフィも眠りの世界に旅立っていった。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ