novel : one

□アイツは俺のもんだ。*ZXR
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 疾うに気付いてたさ。お前ェが思う程、俺ぁ鈍感じゃねェぜ。

 以前は、敵意丸出しで睨むようにアイツを見張っていた。もうずっと前の事だ。
 そん時の事はお前ェも知ってんだろ? あからさまだったからな。
 アイツがクルーの輪の中に居る時には、俺は絶対に入らねェ。上陸時、アイツが船番なら俺も残った。何か仕出かすんじゃねェかと思ってたからな。
 徹底していたと自分でも思う。
 それが、いつからか違う意味でアイツを見張るようになった。そうあの時からか。


 空から降りて間もない頃だ。見張り番だった俺は、いつもの鍛練を思う存分していた。
 身体を動かすトレーニングはナミにどやされるからよ、精神修養だ。座禅を組んで意識を集中する訓練よ。
 そん時だ。アイツが気配を消し、船尾へ行った時があってよ。俺が気付いたのは、ゴソっと音がしたからだ。
 鯉口を切り、柄に手を添え、音がした船尾へ向かった。
 正直驚いた。
 アイツが身体を怠そうに壁に凭れて、今にも倒れそうだったから。
 正直、アイツに関わるのは気が引けた。とにかく、アイツを信用してなかったからな。
 関わる関わらないは言ってられる状態じゃなかったから、咄嗟に支えちまったんだけどよ。

「おい、大丈夫か」
「…剣士さん、ごめんなさい。大丈夫よ」
「…大丈夫っつう顔はしてねェな。顔が真っ青だ。チョッパー呼んでくるから待ってろ」
「いいの! …ごめんなさい。もう大丈夫だから」
「…そうか」
「ええ」

 そう言った直後にぶっ倒れやがってよ。焦ったぜ。
 したらよ、アイツのシャツの胸辺りから血が滲んでてよ。
 これはもう手に終えねェから、チョッパーを起こしに行こうと思って立ち上がったんだ。
 したらアイツが辛そうにこう言ったんだ。

「皆には内緒に…。あなたも面倒臭いことになったら嫌でしょ? 自分で処置するから」

 この女、何なんだ? と思ったね。阿呆かってよ。

「取り敢えず、傷見せてみろ」
「大丈夫よ」
「チッ、面倒臭ェのは嫌いだっつってんだろ。早く見せろ」

 したら、右胸に刺されたような傷があってよ、一回は自分で縫ったみてェだった。俺も経験が無くわねェからな。
 あ? うるせぇな、ほっとけ。そうだよ、お前ェの言う通り、鷹の目だ。
 だから、驚いた訳だ。

「…大丈夫なんつぅもんじゃねェな。いつの傷だ? 化膿してるぜ? 早く手当しねェと…」
「だから、自分で処置するわ」
「…縫うのか?」
「そうよ。慣れてるわ」

慣れてるって言葉に、どうも引っ掛かっちまって。俺は男だからいいけどよ、アイツは女だ。それが信じらんなくてよ。

「おい、船医がいるのに、なぜ頼らない?」
「…この傷が、仲間に入れてもらう前の傷だから」
「…鰐か」
「…そうよ。だから皆に心配を掛けさせたくないの」

 律儀というか、何というか。コイツは阿呆か? と思ってよ。
 そうじゃねェだろって言ったんだ。馬鹿じゃねェかってよ。
 したら馬鹿じゃないわよって頬をリスみたいに膨らして怒ってやがってよ。
 おいおい、そこは突っ込むとこじゃねェだろって笑っちまったぜ。
 アイツも苦笑いしてた。
 そん時、なんだ、こんな顔もすんのか…ってな。

「取り敢えず、傷は傷だ。過去だろうが、今だろうがそんな事は関係ねェ。
 俺も自己流で縫った傷、後にちゃんとした医者に縫い直してもらったんだぜ。
 だから、その変なポリシーだかなんだか知らねェが捨てちまえ」
「ふふ。随分気持ちが楽になったわ。あなたの言葉のお陰よ。
 ありがとう。船医さんを呼んでいただける? くれぐれも…」
「ああ、分かってる。他のクルーは起こさねェし、言わねェよ。安心しろ」
「…ありがとう」

 そっからだ。お前ェが言う、その優しく見るようになったっつうのは。
 あ? 好きかって!? ほざけ、阿呆! そんな事聞くんじゃねェ!
 …ったく、調子に乗るのもいい加減に……。
 まあな。俺も気持ちがはっきりした以上は、アイツを守ってやりてェとは思うがな…。
 あ? 俺の気持ち? ああ、それとなくは伝えたぜ。
 返事? …いいだろ。そんな事。てめェに言う義理はねェな。ご想像に任せるぜ。


 ……もういいだろうが。だから、アイツの事は諦めろよ。
 アイツは俺のもんだ。









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