novel : one
□Sweet Time*ZXR
1ページ/2ページ
港に停泊してから四日目の朝。ログが溜まるのが一週間。残り三日はある。
ログが溜まる期間が長いと、上陸する回数も日にちが経てばおのずと減る。
例えて言うならば俺。
鍛冶屋がないこの島に、俺の目指すものはなし。必然的に上陸回数は皆無。
ただ、俺にはその方が好都合。鍛練、昼寝のし放題だからな。
だから俺は、見張りも兼ねて、甲板に寝転がっている。日課と化してきやがった。
他クルーも各々暇を有効に使っているらしい。
ルフィとウソップとチョッパーは冒険に大忙しだ。連日連れ立っている。
何でも一部残雪があり、雪合戦をしているようだ。若いっていいねェ。って俺も若けェよ。ゾロも行こうぜと誘われたが、丁重に断った。
ナミとコックは、これまた連日買い物、買い出しだ。殆んどはナミの買い物だろう。コックは荷物持ちと化している。まっ、あいつにしてみたら、荷物持ちでも幸せそうだ。
残るクルーのロビン。あの女も上陸当初は姿も見掛けなかった。朝早くから出掛け、夜遅く帰船していた。
何でも島中くまなく歩き回り、歴史の欠片を探していたらしい。結局遺跡らしいものは見つからず、今日から留守番組だ。
微かに胸が高鳴る。微かだ。ほんの一握りだ。何もちょっかい出す訳じゃねェ。ただ二人きりっつうのが嬉しくて堪らなねェ。
俺がこの気持ちに気づいたのはつい最近だ。
何気なくロビンを見ている内に、気になる存在になっていた。ロビンもそうだと思う。あいつを見ると必ず目が合うからな。
況してや、微笑まれたら、普通の野郎だったら自惚れるだろう。あんだけの美人だしな。
「おはよう、剣士さん」
やっと女神がおいでなすった。
「おう、珍しいな。こんなに遅く起きるなんてよ」
「ええ、昨夜は遅く帰船したから」
「そうか」
「今日は誰が上陸組で、誰が留守番組なの?」
「俺とお前が留守番組で、残りは上陸組だ」
「そう。皆忙しいね」
「その言い方だと、俺とお前ェは暇人…という事になるが?」
「ふふ。違うの?」
「違いねェ」
ふふと口元に手を添えながら笑い、キッチンへと向かう。それを追って、俺も後を追う。
剣士さんも飲む?とマグカップを二つ用意する。まさか酒とも言えず、お前と同じでいいと、椅子に座りながら告げる。
それじゃコーヒーねと嬉しそうにポットから黒い液体を注ぐ。気持ち顔が赤いような。気のせいか?
コーヒーの濃い匂いがキッチンに充満する。いつもは感じないが、ロビンが目の前にいる、いてくれるだけでこの匂いが脳裏に残る。懸命に印刷するように。
「そういえば、昼は全員帰ってこねェってよ。昼飯はコックが作っといたと。だから、『温めて食べてね〜ロビンちゃ〜ん』だとよ」
右手で両方のこめかみを抑え、肩を震わせて笑っている。笑いすぎじゃねェのか?
「止めて。ふふ。涙がでちゃう。了解したわ。初めてかもしれないわね」
「何が」
次に出る言葉を期待する俺がいる。『二人きり』という言葉を、その赤い熟した果実色をした唇から発せられるのを、今か今かと待つ。
「ゆっくり、のんびりと食事ができるなんて。初めてだわ」
チッ。ロビンに聞こえないくらいの小さな、溜め息にも似た舌打ちを打つ。がっくりと頭が垂れそうになるが、ぐっと堪える。
「全くだ」
思 ってもいない事を相槌のように言った。察したのか、或いはからかっているのか。次に発せられた言葉に顔がにやける。
「あなたと二人きりというのも初めてね」
嬉しいわと付けたし、ロビンはカップを口に運んだ。何気ない会話だが、俺にはただただ至福としか言えない。ロビンもそう感じてくれれていればいいのだが。
お昼までまだ時間があるわね。と時計を見上げながら言う。
「トレーニングするのでしょう?」
「そうだな」
曖昧に答えた。どうとでも転がれるように。ロビンのしたい事に付き合う。そう決めていたからだ。
「私もトレーニングするわ。刀の振り方を教えて?あなたのする事、見る事を吸収したい。あなたのすべてを感じたいの」
衝撃的発言だ。本、歴史、遺跡。ロビンの興味はそれだけだと思っていたからだ。
胸が沸き立つ。嬉しさを止められない。もう何でもいい。この女を俺にくれ。そんな馬鹿げた事を心の底から願った。
「いいぜ。着替えてこいよ」
分かったわと足早に女部屋へ向かう。その後ろ姿を抱き締めたい思いで一杯だった。その思いをぐっと飲み込むのに、かなりの労力を込めなければいけなかった。
続