novel : one

□密かな野望*ZXR
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 甲板を走り回る声。キッチンから立ち上る美味しそうな匂い。カンカンと金槌を打つ音。
 いつもの情景。
 しかし、いつもと違う情景が、この船の片隅にあった。いつもは寡黙な二人、ゾロとロビン。いつも近くに気配を置き、お互いを感じている。
 話しても要点だけの受け答え。云わば、空気と同等。それでも、彼らは意志が通じているのだ。
 その二人が、今はお互い仁王立ち。

「集中力の差……と言えば、剣士さんでも解りやすいかしら?」
「ハッ、何言ってやがる。集中力じゃお前ェに負ける訳ねェだろう」
「あらあら、さっきの言動を忘れたの? 大人気なかったわよ? 年下の彼らに暴言吐いて…。
 ドタバタうるさく聞こえるのは、あなたの集中力が足りないからでは? ……私は気にならなかったわよ」
「……埒が明かねェ。俺と勝負しろ。どっちの集中力が勝っているか、はっきりさせようぜ」
「ふぅ。いいわよ。ただ勝負するのは面白くないわ。負けたら勝った方の言う事を聞くっていうのはどう?」
「面白ェ。いいぜ。後悔すんなよ」
「ふふ。望むところよ。勝負は… そうね、集中力だから暗記はどう?」
「駄目だ。暗記はお前ェに分があるだろうが。お互いの得意分野は避けろ」
「はいはい。仰せのままに」

 ロビンは呆れて、小さな溜め息を付いた。

「よし、決めた。輪投げだ。」
「は?」
「この前敵に遭遇したろ? 頂戴した戦利品にあったんだ。まさかこんなに早く、役に立つ日がくるとは思わなかったがな」

 ゾロは口元を上げ、ニヤッとした。

「分かったわ。なんなりと」

 ゾロは輪投げを取りに倉庫へ向かった。
 売り言葉に買い言葉。分かってはいるのだが、ゾロの前だと抑えがきかない。
 どうしてこうなってしまったのか。しかし、あそこまで言われて逃げることなど出来ない。
 ロビンはほんの一握りの後悔を、溜め息と一緒に流した。

「よし、3回投げて、よりど真ん中に投げた方の勝ちだ。…どっちからいく?」
「それじゃ私から」

 結果は、3回投げて3回ともど真ん中。ロビンはニヤリとゾロを見る。
 ほらみたことか、と言わんばかりの澄まし顔。ロビンもロビンで大人気ない。
 ゾロはちっと舌打ちし、あくまで冷静を保つ。
 ゾロが位置につき、姿勢を正す。そして投げようとしたその瞬間、温かい何かがゾロの唇を触れた。
 血が逆流し、眼がチカチカする。手元が狂い、投げた輪っかは明後日の方向へ。

「テメェ…何しやがる! 『手』は卑怯だろ!」
「あら、勝負の主旨を忘れたの? 集中力よ。集・中・力。ふふ。でも、今ので勝負ありね」
「なっ、てめ、ズリィだろ!」
「ホホホ。勝負は勝負よ、観念なさい。 …それとも、剣士に二言はある …のかしら?」
「〜〜〜〜ッ」
「さて。勝ったから、お願いを聞いてもらおうかしら。何でもいいって言ったわよね?」
「わーったよ。剣士に二言はねェ」
「そ。いい子ね。それじゃあ、せっかくだから、集中力と短気の訓練をしましょう」
「あ? そんなんでいいのか?」
「ええ。た・だ・し。私の遣り方で遣るわよ」
「ああ。構わねェ」
「じゃあ始めるわよ。覚悟して」




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