novel : two

□coffee*ZXR
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 キッチンにはまだ明かりがついていた。まだ中にいるのかもしれない。そっとキッチンの扉を開ける。
 案の定、テーブルに突っ伏し、ロビンは規則的な寝息を立ている。

―――ったく。この寝顔がまたたまんねェんだよな。

 目尻が下がる。どうこけにされても、おれの選択肢は変わらない。惚れた弱みか。とにかく、愛おしい女だ。
 倉庫から毛布を取ってきて、ロビンの背中にふわりと掛ける。あどけない寝顔がおれの怒りを静める。
 先程までの心の畝りはもう微塵もない。
 ロビンの真横に陣取り、少しの間寝顔を眺める。

―――明日からはもう少しおれに寄り掛かれよ。それがおれのためにもなるだからよ?
 一から十まで頼れ、なんて言わねェし。一から……そうだな、三つくらいなら、おれをあてにしてくれてもいいんじゃねェのか?

 おれもロビンと同じ姿勢で、そう問いかける。口には出さず、心の中で。

「ん……ゾ……ロ……」

 突然の事で、おれの頭ん中は混乱寸前だった。身動きが取れず、その体勢で固まった。
 驚いた。寝言……だよな? 初めておれの名前を呼んだのを聞いた。
 身体中の血液が逆流するような、そんな衝撃を受けた。まだ心臓がばくばくと脈打っている。

―――こんなんで精神を乱すようじゃ、まだまだ修行が足りねェな。ま、ロビンに関する事じゃ、乱されるのも仕方がねェが。

 明日はおれも早起きして、ロビンを見送ろう。一緒に行きたいのは山々だが、そんな野暮はしない。ロビンの嫌がる事は絶対にしたくねェからな。
 だから、今夜はこのままお前の傍にいさせてくれ。
 同じ体勢で、二人してテーブルに突っ伏して寝るなんざ、端から見れば滑稽だが、おれはそれでも十分満たされる。
 おれはお前と何もかもを共有したい。この刻も然り。
 ロビンを見遣ると、口吻が少し上がっているのが分かる。寝ながら笑みを零すロビンも可愛い。歴史の事でも考えてやがるのか。おれの事なら至幸なんだがな。


 夢の中でなら、お前を独り占めできる。
 願わくはお前の夢を……。






 ハッと目が覚めた。咄嗟に隣に寝ていたロビンを思い出す。寝違えた首が痛かったが、そんな事も構わずに横を確認する。
 既にロビンはいなく、代わりにロビンに掛けていた毛布がおれに掛かっていた。

「お、マリモ起きたか」
「……ロビンは?」
「おれが起きてきた時にゃ、既にお前だけしかいなかったぜ。ロビンちゃんも寝てたのか?」
「……まあな」

 毛布をはぐり、匂いを嗅ぐ。ロビンの匂いが微かにした。鼻腔を通り過ぎる甘い匂い。全身にその匂いに包まれている。
 瞼の裏で思いを馳せる。ロビンの姿を思い出し、残像に耽る。毛布をそのまま頭から被り、ロビンを直に感じる。

「……ベタ惚れだな」
「……当然」
「ん。そうか」

 コックはそれ以上何も言わなかった。いつもはからかうだけからかうくせに。

「飲むか? おれ様特製ロビンちゃんオリジナルブレンドコーヒーだ」
「……ロビン好みのコーヒーか……。いただく」
「ほらよ」

 そのコーヒーは、濃く苦く、しかしほんのりと甘かった。



 ロビンが傍にいなくとも。
 ロビンがここにいなくとも。
 おれはロビンを近くに感じる。
 ロビンもそうだと信じている。
 ならば。おれも肩の力を抜こう。ロビンが好きで、好きで、好きすぎて、多少なりとも暴走気味だった。

 甲板に出て、陸を眺める。ロビンはこの陸のどこかで必死に発掘作業をしているのだ。
 今日の帰船も遅いのだろう。ならば、今日とて帰りを待っててやりたい。
 コーヒーを。帰船したら、一緒にコーヒーを飲もう。
 伸びを一つし、甲板にごろ寝する。朝日は眩しいが、眠りはすぐ訪れた。
 昨夜の眠りで見られなかったロビンの夢を、出来れば見たいと願いながら、おれは深い眠りについた。










あとがき
 今回はオチがなかなか難しく、仕上げるのに多少の時間を有しました。
 喧嘩→甘々としたかったのですが、んー難しかったです(汗)
 でも、ロビンちゃん溺愛のゾロが描けたと思います。

Z「遺跡とおれとじゃ遺跡の方が上か?」
T「当然です(どーん)」

最後までお読みくださって有難うございました。

07.07.30
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