abemizu

□きみを、愛してる
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[設定]同じ大学に通う二人。若干描写アリ。



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「……なんで来てんだよ」

「…そ…そっちこそ」


人数合わせに呼ばれたコンパの席。付き合いで来ただけで、別に深い意味はなかったけど…オレはものすごく後悔していた。

コンパでしょっちゅう使う居酒屋。先に着いていたのは女の子が二人と、男が三人。
その中に、毎日のように見ている顔があった。


「…暇人」

「う…うるさいな…阿部こそ、こういうの興味ねぇとか言ってたくせに…!」


阿部の嫌味に精一杯反論してみるものの…声がうわずる。

阿部がものすごく怒っているのが痛いほど感じられた。
きっと浮気目的だと思ってるんだ。
…ただの付き合いなのに。


「ねぇねぇ、阿部くんって何かスポーツやってるの?」

「……野球」


女の子が話しかけても、素っ気ない返事を返すだけ。普通ならそんな態度をとられたら話しかけなくなるものだけど…その女の子は負けじとさらに次々質問をしている。

…阿部が好みのタイプなのかもしれない。
そう思ったら胸がもやもやしてきた。


「水谷くん、今日は来てくれてありがとね」

「あ…あぁ、うん」


オレを誘った同じ学部の女の子が話しかけてきて、笑顔で答える。
せっかく誘ってくれたんだから…暗い顔をしてちゃダメだ。オレは阿部の方を見ないようにしてその子とばかりずっと話していた。


人数が揃い飲み始めてから1時間。みんな次第に酔ってきて、自然と二人ずつのカップルが出来上がっていた。
阿部も、きっとさっきの子と二人で話してるんだ。それを見るのが嫌で、オレは端の方で一人自棄酒を煽っていた。隣りではオレを誘った女の子が一人ぺらぺら喋っていたけれど…全然耳に入ってこない。

阿部のヤツ…興味ないとか言っといて。ほんとは女の子と仲良くしたいんじゃんか。
オレが苛々し始めていると、いつの間にか隣の女の子が俺に身体をもたれさせてきていた。


「…なに…どうかした?」

「アタシさぁ、前から水谷のこといいなーって思ってたんだよねぇ…」

「え…」


彼女の手がそっとズボンに伸ばされる。オレは慌てて身を捩った。


「ちょっ…冗談だろ…」

「えー…本気だよ?ねぇ…二人で抜け出してホテル行っちゃおっか…?」

「…え…ちょっ…」


逃げようとするオレにのし掛かるようにして、彼女がオレに抱き付いてくる。
普通なら、ラッキーだと思うに違いない。女の子の方から誘ってくれてるんだから。

でも…でもオレは…。



「ちょっ…待っ…」

「…そこまでだ」


不意に背後から低い不機嫌そうな声が聞こえた。
振り返って確かめる暇もなく、襟元を掴まれて強引に立ち上がらされる。


「あっ…ちょっとなによぉ」

不満そうな声を上げる彼女。慌てて後ろを振り返る。


「あ…」

「……来い」


強引に腕を引っ張られ、店の奥に連れて行かれる。
彼女が何かかん高い声で叫んでいたけれど…やがて聞こえなくなった。






***







「……」


店の奥にあるトイレに入ると、ようやく腕を離された。
強い力で引っ張られたせいか、ジンジン痺れるような感じがする。


「…いきなり…なんだよ」


腕をさすりながら、沈黙に耐えかねて小さく呟く。阿部はさっきから何も言わない。
黙ってじっとオレを睨んでいるだけだ。


「…お前、ああいうタイプが好きなのか」

「……は…?」

「ああいう尻軽女は誰とでも寝る。病気うつされても知らねぇぞ」

「……なに言ってんだよ…」


阿部の言っている意味がわからない。
オレがいつ好みだなんて言ったんだ。どうみても一方的に迫られてたのに。


「…あ…阿部こそ、さっきの女といい感じだったじゃないか」

「…なんのことだ」

「とぼけんなよ…さっき二人きりで話してた子だよ。あの子、阿部のこと気に入ってたぽいじゃん」

「……」

「オレのことなんか構ってないで、さっきの女とよろしくやってればいいだろ…」

「…本気で言ってんのか」

「…オレのことなんか…ほっとけよ…!」



僅かに声が震えてしまい、床のタイルに視線を落とす。
阿部は何も言わない。


「っ…」


不意に、阿部にグッと襟元を掴まれた。

殴られる…!

そう思って、咄嗟に目を瞑る。
背中が壁にぶつかる。頬への衝撃はない。



「……」


おそるおそる目を開けると、すぐ目の前に阿部の顔があった。悔しそうな、辛そうな顔。
戸惑いながら辺りを見回す。トイレの個室の壁に押しつけられたみたいだ。
二人で入る個室は窮屈で、二人の息遣いだけがいやに大きく聞こえる。


「……」


ガチャ。


静かな空気に鍵を閉める音が響いた。


「あ…阿部…」

「…黙ってろ」


阿部の様子に戸惑っていると、耳元に低い声で告げられる。
阿部の手が、オレのズボンに伸びる。


「ち、ちょっ…阿部…」

「……」


黙ったまま、ズボンが下着と一緒に引き下ろされる。
何のためかなんて…聞かなくても分かる。


「う…ウソだろ…っ…」


狼狽するオレを気にすることなく、阿部はオレの下半身をじっと見ている。
視線を感じて腰が震える。


「……さっきの女で、こうなったのか?」

「……ぅ…」


オレの気持ちとは裏腹に、そこは僅かに反応を示し始めていた。
別に、彼女としたいと思ったからじゃない。
でも…オレだってちゃんとした男だ。女の子に抱きつかれれば反応もする。

けれども阿部は、反応しているオレ自身を見てひどく苛立った表情をした。


「あ…あべ、っ…」


言い訳する間も与えられず、オレは壁の方を向かされた。
壁に手をつかされ、軽く尻を突き出した格好をとらされる。


「…ぅ…やだ…やだよ…阿部、っ…」


足が震えてうまく立っていられない。
これから何をされるか…答えはひとつしかない。

震えながら必死に訴えるオレの声などまるで聞こえていないように、後ろで微かに阿部が動く音がした。



そして。




「…ぃ…っ…!」


何の準備もなく、唐突にそれはオレの中に進入してきた。
普段は、こんなふうにいきなり入れたりは絶対にしない。十分準備して、それからゆっくり入ってくる。
それだけゆっくりされても、オレはなかなかこの行為には慣れることができなかった。
オレが力を抜けないせいで阿部がきつそうな顔をしているたびに、申し訳なくなってくる。

だけど…今日はそれ以上だった。


「…ぅ…ぐ…」


圧迫感と、身体を突き刺されたかのようなするどい痛み。
目の前が真っ赤になって、ちかちかと光が点滅する。
ぐらりと前に倒れそうになるオレの身体を、阿部が片腕で支える。


「…っ…」

「…く、やぁ…い、たい…っ!!」


ここがどこなのかも忘れて、オレは大声を上げた。
阿部がいきなり激しく動き出し、オレの口を片手で塞いだ。

声が出せない苦しさに、目の前がぼやける。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


身体がちぎれてしまいそうな痛みと…阿部に信じてもらえない悲しさ。
その両方がこみあげてきて、身体中が痛かった。


「……ぅ…」


まるで慣れない行為のように乱暴に動いた後、阿部は小さく呻いてオレの中に全てを放った。

頭が真っ白で、何かを考えるのが億劫に思えた。
阿部に支えられたまま、オレは床のタイルを見つめていた。



「……ごめん…」


小さな、消えてしまいそうなくらい小さな声。
その声は、まるで泣いているんじゃないかというほど震えていた。

痛む身体を無理に動かして、ゆっくり振り返る。

顔を見る前に、阿部の両手が強くオレの身体を引き寄せた。


「……あ…べ…」

「……ごめん…ごめん水谷…っ…」


抱きしめる阿部の腕が震えている。何度もオレに謝る声も、まるで子供が母親に謝るときみたいに震えていた。

阿部が泣いてる…。

おそるおそる腕を上げて、阿部の背中にまわす。
あやすように背中をなでると、阿部の身体がさらに震えるのが分かった。


「…もう…いいから…」

「…ごめ…ん…」

「いいよ…オレもごめんね…」

「……」


少し身体を離して阿部を見つめる。阿部は泣きながら首を振った。
泣き顔を見せたくないのか、俯いたまま腕で顔を隠している。


「…付き合いで仕方なく来たんだけど…これからはもう、来ないから…」


そっと手を伸ばして阿部の髪を撫でる。
あやすようにそっと囁くと、阿部は鼻をすすりながらオレも、と小さく呟いた。






    ***






トイレを出ると、オレたちは早々に二人でコンパを抜け出した。
女の子たちは面白くなさそうな顔をしていたけれど、もうそんなの構ってられなかった。


「……平気か…?」

「……ぅー…」


阿部に支えてもらい、ふらつきながら歩く。
腰やら尻やら…どこもかしこもずきずきと痛む。歩くたびに痛んで、オレは小さく唸った。

心配そうにしている阿部を見ていると、無理してでも平気なふりをしてやりたいんだけど…とてもできそうにない。


「水谷…ほら」

「…ん…?」


阿部はオレから手を離すと背中を向けて屈んだ。
一瞬躊躇うけれど、これ以上は歩けそうもない。オレは諦めて阿部の背中におぶさった。


阿部の体温が心地良い。
深夜に近い時間だからか、人気はほとんどない。
オレは安心して阿部に身体を預け、目を閉じた。

冷たい風が頬に当たるけれど、阿部の温もりのせいか寒さは感じない。
阿部はオレを気遣うように、ゆっくりと歩き始めた。


「……これからは…もっと大事にするから…」


次第に襲ってきた眠気と闘いながら、阿部の声に重い瞼を開く。
口を開くのさえ億劫で、オレはんー、とだけ返した。


「女になんか興味ない…水谷にしか…興味ないから…」




愛してる。


眠りに落ちていく心地よい意識の中で、阿部の声が聞こえた気がした。


オレも愛してる。

そう呟いたつもりだったけれど…阿部には届いただろうか。

届いてなかったら、目が覚めてもう一度言おう。


阿部に届くまで、何度でも。



きみを、愛してる。







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