abemizu

□カウントダウン
1ページ/1ページ





ベッドの上に放りっぱなしの携帯が鳴った。

読みかけの雑誌から目を離し、携帯に視線を向ける。

曲のタイトルは知らない。



「これが鳴ったらオレって、すぐわかるでしょ」



そう言って水谷が勝手に設定した曲だ。

携帯を開くと新着メール、の文字。時間は11時30分。

いつの間にか結局遅い時間になっていた。



『なにしてる?』



メールの内容はそれだけ。

水谷にしては珍しい。

いつもならくだらないことで埋まった長いメールなのに。



『雑誌みてた』



少し気になりながらも、同じく短いメールを返す。



それきりメールが来なくなった。

…んだよ。自分からメールしてきたくせに。

メールを待っている自分に気づいてバカらしくなり、携帯をベッドに放る。

…することもねぇし、そろそろ寝るか。




電気を消そうかとベッドから腰を上げた途端。


再び携帯が鳴った。

…どっかで見てんじゃねぇだろうな…。

あまりのタイミングの良さにそんなことを考えながらメールを見る。



『窓の外、見てみて』



…窓の外?なんなんだ、一体…。

わけがわからないまま、ベッドを降りて窓に近づく。

カーテンを開け、結露で曇った窓を手のひらで擦る。

擦った窓ガラスごしに外を見る。空には僅かに星が出ていた。


ふと、何気なく下を見ると。




「……ん…?」




街頭に微かに照らされた道。

家の前に、誰かが立っているのが見えた。

窓ガラスに顔をくっつけ、目を凝らす。

その姿を確認すると、オレは思わず窓を開け身を乗り出した。



「水谷…っ!?」

「…あ、阿部」



家の前に、水谷が立っていた。

窓を開けると冷たい風が肌をさす。

こんな寒い中…なにしてるんだ…。




「何…してんだよ…こんな遅くに…」



オレの声に戸惑いを感じ取ったのかもしれない。

水谷はすまなそうに笑ってごめん、と言った。



「待ってろ…今降りるから」

「あ…いいから、そこにいて」



慌てて降りようとしたオレを、水谷が制した。




「…何…」



わけがわからなくてただ水谷を見つめる。

水谷は手に持っていた携帯で時間を確認しているようだ。



「もうちょい…あと10秒…」

「10秒って…」



9、8、7…とカウントする水谷をじっと見つめる。

1…と呟いて、水谷が顔を上げた。

何が起こるのか少し緊張するオレを見る。




「誕生日おめでとう、阿部」



一瞬、なんのことか分からなかった。

今日は…12月…10日で…。

そこまで考えてハッとした。

誕生日…オレの誕生日か。




「どうしても、一番におめでとって言いたくてさ…来ちゃった」



時計を見ると、0時をさしていた。

もう11日になったわけだ。


…一番に言いたくて…わざわざ…。




「お前…それでこの寒い中来たのかよ…?」

「うん、実は40分くらいからここにいた」

「バ…ッ、ちょっと待ってろ!」



思わず大声で怒鳴ると、オレは部屋を飛び出した。

部屋を出てから、もしかして今の声で誰か起きたかもしれないと思ったけれど

それはそれで別にいいかと思った。


そんなことに構っていられなかった。




玄関のドアを開けると、変わらず水谷が立っていた。

間違いなく、水谷だ。

オレの姿を確認すると、嬉しそうに笑みを浮かべた。

傍まで近づくと、寒そうに両手を擦り合せている。

その手が赤くなっていた。




「バカ…お前、風邪でもひいたらどうすんだ…」

「…へいきだって。バカは風邪ひかないって言うし。…なんてな」

「……バカ…」



冗談を言ってへらりと笑う水谷を、半ば強引に引き寄せる。

微かに声を洩らしてバランスを崩した体を強く抱きしめた。

その体は冷えきっていて、こっちまで寒くなってきそうなくらいひやりとした。



「……オレの誕生日なんか…どうだっていいんだよ」

「…阿部…?」



誕生日なんて、別に特別な日だと感じたことはあまりない。

プレゼントをもらったり、ケーキを食ったり。

そんな特別なことも、した記憶がないから。




「こんな日付変わると同時に言いにこなくたって…明日の朝学校で会ってからでも良かったろ」

「…それじゃ、意味ないんだよ」




オレの言葉に首を振ると、水谷は困ったように笑った。




「一番じゃないと…意味ないんだ」

「…水谷」

「阿部が生まれた日を、一番最初に祝いたかったから」



少し照れたようにそう言って、水谷はオレの頬にキスをした。



水谷の唇が触れた部分が熱くなるのが分かる。

体中が熱くなって…胸がじわりと温かいもので満たされる気がした。


誕生日なんて、どうでもいい日だと思っていたけど。




「サンキュ…すげぇ…うれしい」




水谷がそばにいて、こうして祝ってくれるなら。


最高に幸せな、特別な日だと思った。




耳元に、そっと囁くように告げると。


水谷は、これ以上ないくらい幸せそうに笑った。



水谷がそばにいてくれたら。

こんなふうに幸せな誕生日が、これからも迎えられる気がした。






------------------------------

阿部ハピバ話。
もうちょっと長編になるつもりが…案外短くまとまりました(笑)
できればプレゼント話で後日談を書きたいところ…。

とりあえず阿部の誕生日に間に合って一安心です。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ