abemizu

□それでもすきな、君
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中学生の二人。

[設定] 幼馴染み。相互片思い…?

(注・文貴、隆也で呼び合ってます)



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「オレ、彼女ができた」



一瞬、何のことか分からなかった。

ただ黙って文貴の顔を見つめる。


間の抜けた顔をしていたのかもしれない。

なにその顔、と文貴は笑った。




「…かのじょ…って」

「そ、彼女。いっこ下なんだけどさぁ…可愛いんだ」

「……」



こんな日が来ることは、前から分かってた。

文貴は、オレと違って人気者だから。

男にも女にも、友達は多い。

結構モテるのも知っていた。




「…おーい、隆也?」

「……そっか…よかったな」

「ん、まぁな」




なんとかそれだけ言って、視線を逸らす。

自分でも驚くくらい、動揺していた。

視線が回る。たっているのがやっとな感じだ。




「隆也も、早く可愛い彼女作りなよ」



文貴はオレの様子に気づきもしないで喋り続けている。

…彼女なんて、いらない。


そんなもの…欲しいとも思わない。



「…オレはいんだよ」

「えー…なんでさ?」



文貴を置いて歩く足を速めた。

その後ろを、文貴がついてくる。




「…隆也、なんかヘンだよ?」

「……」

「……なんだか…オレが彼女作ったのがおもしろくないみたい」



文貴の呟きに、思わず足を止める。

後ろから頑張ってついてきていた文貴が、オレの背中にぶつかる。




「…ってぇ…!急に止まんなよぉ…」

「……んで…」

「…え…?」



振り返ると、痛そうに鼻をさすっている文貴を睨みつける。

文貴の目が、驚いたように見開かれる。



「……隆也…なんで…泣いてるの…?」

「……っ…」



文貴の言葉に慌てて顔を押さえる。

知らないうちに涙が出ていた。

急いで涙を服の袖で拭う。


文貴の視線が痛い。

こんなかっこ悪いとこ…見られたくなかったのに。




「……オレ…帰る」



文貴といると、また泣けてきそうで。

掠れた声で呟いた。

そのまま文貴に背を向ける。



すると、文貴が深いため息を洩らした。

気になって、ちらりと後ろを振り返る。


文貴は、呆れたような顔でオレを見ていた。




「…もー…素直じゃないんだから、隆也は…」

「……え…」

「…オレが彼女作んの、やなんだろ?ほんとは」

「…っ…べ、別に…」

「泣いてたじゃん、今」

「…そ…れは…」



何て答えよう。

何か言ってごまかさないと…。



オレが必死に言い訳を考えていると。




「…ウソだから」




ぽつりと、文貴が呟いた。


…ウソ?なにが…?


あっけにとられているオレに向かって、文貴は困ったように笑った。




「彼女ができた、なんて。ウソだから」

「……な…」

「…隆也がどんな反応すんのか、見たかっただけ」



ごめん、と謝る文貴の言葉は、オレの耳には入ってこなかった。

ウソだったことへの安堵より、文貴への怒りの方が強くて。



「…隆也…怒った…?」

「……しばらく文貴とは口聞きたくねぇ」

「え…ちょ、ごめんって…隆也ってば」

「知らねぇ!このバカ!無神経!」

「た、隆也ってば…」



なだめようとしてくる文貴に背を向ける。

当分許してやるもんか。

何を言ってこようと、絶対に。




「……隆也が好きだから…さ…」




オレが決意していると、不意に文貴がぽつりと呟いた。

その言葉に反応しかけて、慌てて止める。

…そんな手にひっかかるもんか。




「隆也…」




文貴の寂しそうな声に、決意が揺らぐ。

…ダメだ。騙されちゃ。



「隆也は…オレが嫌い…?」

「……」



ここで騙されたらダメだ。

どうせわなに決まってる。




「…嫌われちゃった…かな…」

「……」

「ごめんね…もう…言わないから、さ…」




何も答えず黙って文貴の言葉を聞く。

それきり、しんと静かになった。



後ろを振り返ると。



文貴は、もうそこにはいなかった。

途端に後悔がこみ上げてくる。

なんで何も答えてやらなかったんだろう。


もしかしたら…本気だったかもしれないのに。




「…文貴…っ!」



オレが声を上げて駆け出すと。





「はぁい」



すぐ近くで、返事が聞こえた。

ハッとして声のしたほうへ顔を向ける。




「……文…」

「…呼んだ?」



木の陰から、文貴がひょいと顔を出した。

その顔には、にんまりと笑みが浮かんでいる。


…また騙された。





「ね…そろそろ機嫌直してよ」

「……るせぇ」

「ねー…隆也ってばぁ」

「…当分お前とは口聞かねぇ」

「そんなぁ…オレのこと、好きなくせに…」

「誰がだ!お前なんかなぁ…」

「…んー…?」



にやにやと、しまりのない笑顔に力が抜ける。


キライ、なんて。

…ウソでも、いえるわけがない。



「…っ、てぇ…!!!」



だから。

オレは、悔しさをこれ以上ないくらい込めて。




大好きな、文貴の足を思い切り踏んづけてやった。




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阿水中学生日記(笑)
別に高校生でも大丈夫なんですが…あえて別設定ということで
他の話と区別したかったので。

えー…なんだか阿部が可愛くて、これ水阿っぽいです(笑)
基本的に日常ではどちらもいける感じです。

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