abemizu

□2センチメートル
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「なー、阿部ってば」

「……」

「あーべー」

「……るさいな」


さっきからずっとこの調子。

何を怒ってるんだか、分からない。

早足で歩く阿部の後を必死に追いながら、今日あったことを思い出す。

…オレ、またなんか怒らせるようなこと言った?


「あ、あのさー…昼飯のパン、半分よりたくさん食ってごめんな…?」

「……」

「あー…っと、3時間目の英語のさ、スペル違って教えたの…怒ってる?」

「……」

「ぅー…んじゃ…ええと…」


他に何か怒らせるようなことを言っただろうか。

…全然、思い出せない。


「…あ!部室に賞味期限切れのパン放置してたのオレだってバレちゃった…?」

「…はぁ!?アレお前かよ!」


…ぅ…墓穴ほったみたいだ…。


「あ…あれ?それ怒ってたんじゃ…」


阿部はオレを見て盛大にため息をついた。

まだ他にあっただろうか…。


「…別に、お前に怒ってるわけじゃねぇから」

「……じゃあなんに怒ってんの」

「………オレ自身に、かな」

「へ?阿部自身?」


なんで、と問うと、阿部は決まり悪そうな顔をした。

歩みも自然と遅くなる。


「…今日の…身体測定」

「…身体測定?」

「……水谷、172センチだったろ」

「…なんで」


そんなこと知ってるんだろう。

…というか、それがなんなんだ。


「……170だった」


オレが考え込んでいると、小さくぽつりと阿部が呟いた。


「…なにが?」

「何って…オレがだよ、オレが」


不機嫌そうに言うと、再び阿部の歩みが速くなる。


おいていかれないように必死に小走りでついていきながら、阿部の言葉を頭の中で整理する。


…オレが172で、阿部が170。


「…2センチ…?」

「……クソ…今日から牛乳倍飲んでやる…」


阿部の小さな呟きに、オレは思わず笑ってしまった。

…阿部にはすごい睨まれたけど。

背なんて関係ないのに、なんて言っても…阿部は納得しないんだろうな。

へんなとこを気にする阿部が、なんだか可愛く思えた。


「…じゃ、オレも今日から牛乳倍飲もっと」

「……オレは3倍飲む」

「…負けず嫌い」

「……うっせ」


隣に並ぶと、目の高さがちょうど一緒くらいで。

オレは、今のまんまでいいと思う。

このまんま、同じでいい。

だから、このまんま差が縮まらないように。


このまんま、今のままで傍にいられるように。


…牛乳、今日から5倍飲もう。




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前からぼんやり思ってた、身長ネタ。
阿部はすごく気にしてそうだなー…と思うので。
体重から言うと、阿部の方がガッシリしてるかな。捕手だし。

勢いでやっつけたものの…なんか最後がしまらなかったかも…。

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