Song For You

□正義の味方
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誰もいない真っ暗な部室は、ちょっと気味が悪くなるくらい静かだった。

でも今は、その静けさが逆にありがたい。

今は…誰とも話したくない。


出てくる涙を服の袖で拭う。

こんな姿は誰にも見られたくない。



「……阿部…?」



コンコン、と軽くノックする音が響いた。

続いて、遠慮がちに名前を呼ぶ声がする。

…誰かなんて、声だけで分かった。

でも、あえて分からないふりをする。




「…誰だよ…」



わざと不機嫌そうな声。

機嫌が悪いのがわかったら、諦めるかもしれないと思ったからだ。




「……」



案の定、ドアの向こうの相手は黙ってしまった。

このまま、諦めて先に帰ってくれたらいい。


だけど…ドアの向こうの相手はオレの予想していなかった答えを返してきた。




「……オレは…阿部を元気にするためにきた、正義の味方だよ」




予想外の答えに、思わずブッと吹いてしまう。


…なんだ…正義の味方って。


高校生の言う台詞かよ…。




「…そんなもん、呼んでない。帰れ」



呆れを通り越して、思わず笑ってしまいそうになる。

でも、今この顔を見せるわけにはいかない。

オレは素っ気なく返した。



「……」



再びドアの向こうが静まりかえった。

…今度こそ帰ったか。


そう思っていたら。




「…阿部を元気にするまで…帰れない…」



先ほどよりも幾分か元気のない声で、そいつは答えた。

微かにドアがきしむ音がした。

…どうやらドアの前に座り込んだようだ。


居座る気か。




「…いいから帰れって…言ってんだろ…!」

「……阿部…泣いてんでしょ…」

「…っ…わかってんなら、そっとしといてくれよ…」

「…阿部が元気ないと…オレも元気なくなる。そんなふうに言われたら泣きそうになるよ…」



しばらくの言いあいの後。

微かに、ドアの向こうから耐えるような声が洩れてきた。


…まさか。

本気で泣いてんのか…?



「…おい……何も泣くこと…」



言い方がきつかったんだろうか。


焦って鍵を開け、ドアノブを回すと。



「……」

「……」



ドアの前にしゃがみこんでいる、水谷と目が合った。

その顔には、しまった、という表情が浮かんでいて。




「…っ、このやろ…だましたな!!」

「あ…や、だますつもりは…」

「…っ、ざけんな…!」

「ご、ごめんっ…ごめんてば…」



騙されてすんなりドアを開けてしまったのが悔しくて、オレは近所迷惑も考えずに怒鳴った。

…さっきまで泣いていたのも忘れて。





「…ねー…阿部…」

「……」

「ごめんってば…ほんとに心配だったからさ…」



帰り道。

何度もしつこく謝ってくる水谷を無視して、俺は黙って自転車を漕いだ。


水谷に騙されたのが悔しくて…どうして泣いていたのかも忘れてしまっていた。

…結果的に、水谷のおかげ、なんだけど。

悔しいから、絶対に許してやるもんか。



「…じゃあな」

「あ…待って」



さっさと別れようとする俺の背に、水谷が声をかけてきた。

仕方なく、水谷の方を振り返る。




「正義の味方…役に立ったでしょ?」



水谷はへらりと緩く笑んだ。



「……バーカ」



その言葉に、思わず笑ってしまった。


笑顔のほうがいいよ、なんて言って水谷はさっさと家に向かって自転車を漕いでいった。



情けない正義の味方、だけど。


今日のところは、感謝してやるか。




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阿水。これは友情もの(?)かと。
リクエストいただいてから随分たってしまいましたが…ふと重いついたので。
曲は「rough.メイかー」です。

リクエストありがとうございました!こんな話になっちゃいましたが…;
遅くなってすいません〜





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