Song For You
□いつか、また
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阿水。別れ話
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駅のホーム。
頭に浮かんでくるのは、水谷の顔ばかり。
…あんな顔を見たのは…初めてだった。
電車を待ちながら、線路の向こうの景色をぼんやりと眺める。
見えているはずなのに…何も見えてこない。
何も感じない。
…アイツが…いないから。
「阿部」
水谷に呼ばれると、他のヤツらに呼ばれるのとは違う響きのように思えた。
返事をしないでいると、いつまでもしつこく呼んでくる。
それでも無視していると、拗ねてそっぽを向いてしまう。
それが面白くて…わざと聞こえないふりをしてた。
…もう…あの声で呼ばれることは二度とない。
自分の手に、視線を落とす。
右の手は、ずっと拳を握りしめたままだ。
ついさっきまで…水谷の手を握っていた、右手。
その温もりを残したくて、ずっと拳を握り締めている。
「……」
そっと開くと、その手はすぐに外気にあたり冷たくなった。
水谷の温もりは…もうない。
どこにも。
「……ぅ」
視界がぼやけて、洩れる嗚咽に口を押さえる。
頭に浮かぶのは…水谷の顔。
アイツは泣きながら、それでも笑っていた。
オレのことを、忘れないで。
思い出すときは…笑ってる俺を思い出してほしいんだ。
だから、笑って見送るよ。
涙が後から後からあふれてきて、止められない。
オレのために、無理して笑ったあの顔。
またね、と水谷は言った。
もう会えないって、分かっているのに。
「サヨナラって、悲しい言葉だと思わない?」
いつだったか、テレビを見ながら水谷が言ったことがあった。
オレは別になんとも思わなかった。
そうか?と返した。
「オレは、サヨナラよりまたねって別れるほうがいいな」
「…もう会えなくてもか?」
「だって、またいつか会えるかもしれないだろ?わかんないじゃん」
だったら、またねって方がずっといい。
また会えるって、思えるから。
「……みずたに…」
返事はない。
もう…いくら呼んでも返事はかえってこない。
いくら手を伸ばしても…水谷には届かない。
いつか…この悲しさが薄れていくのだろうか。
水谷のことを…思い出にしてしまうのだろうか。
別れ際、何も言えずに黙って俯いてしまったオレに。
水谷はもう一度、またね、と言った。
顔を上げると、もう水谷は泣いていなかった。
笑顔で、オレを見ていた。
「阿部も…笑って」
「……」
「そんで…またねって、言ってよ」
笑えるわけ、ない。
こんなに辛くて、苦しいのに。
結局オレは、最後まで笑えなかった。
黙って、別れた。
それでも水谷は、笑って手を振っていた。
いつまでも、ずっと。
電車がゆっくりとホームに入ってくる。
荷物を持つと、振り返ってもう一度景色を見る。
水谷と、過ごした町。
もう…帰ってくることもない。
「……またな…」
小さくぽつりと呟く。
まだ冷たさの残る風が、オレの横を通り過ぎる。
いつか…また。
そんなときがあるかどうかは、わからないけれど。
いつか、また。
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阿水別れの話。
普段はこういう悲しい話は避けているのですが、挑戦してみました。
歌は「又.愛.マショウ」です。リクエストいただいて書きました。
リクエストをいただいて、そういえばじっくり聴いたことがなかったなと思い、早速聴いてみたところ。
…涙が止まりませんでした。
こんな悲しい歌で書くのか…と、ちょっぴり切なくもなったのですが。
でもなんかすごく書いてみたくなり、挑戦。
んー…どうでしょうか。若干歌詞そのまんまになった気がして微妙ですが(苦笑)
リクエストありがとうございました!
こ、こんな微妙な話になっちゃってすいません;
もう1タイトルについても、書いてみたいなと思ってますので…。
またそのうちupするかもなので、気長に待ってやってください〜。
なお、この話は切ない終わりになっちゃったので…その後ストーリーを近々書きたいです。
そのうちこっそりupしているかも。