Song For You
□いつも見る景色
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大学生になった阿部と水谷のお話。
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駅の改札を抜けると、見慣れたジャージの後ろ姿を見つけた。
…相変わらず無頓着なんだから。
こっそり心の中で思いながら、近付いて軽く肩を叩く。
振り返ったその顔は、いつも通り不機嫌そうだ。
「…待たせちゃった?」
「…たいして待ってねぇよ」
…でも眉間のシワが気になるんですけど。
たまには嬉しそうな顔で迎えたりしてくんないのかな。
…まぁ、あんまり期待はしてないけど。
「阿部、帰りにさぁ…どっか寄ってかない?」
不機嫌そうな顔のまま歩き出す阿部の後を急ぎ足で追いながら、その背中に声をかける。
…振り向いた阿部の返事は。
「…嫌だ」
「えー…まっすぐうち帰んの?帰って何すんのさ」
「…帰って寝る」
…いつも通りの返事だけど、何回聞いてもつまらない。
あまりにも毎回機嫌が悪いから、実はオレが邪魔なんじゃないか…とか。
嫌でも考えてしまう。
駅の駐車場に向かいながら、自然と会話がなくなる。
オレが喋らないからだ。
オレたちはいつもこんな感じ。
オレが話さなきゃ、阿部も話さない。
いつもなら、黙っていても一緒にいれるだけでいいと思うけど…。
今日みたいに不安な日は…沈黙が苦しい。
車の窓から外の景色を眺める。
すっかり見慣れた景色。
でも…車の窓から、だけだ。
駅から阿部のアパートまでの見慣れた道。
たまには他の景色も見たい。
いつだったか、そう言ったことがあった。
返事はもちろん…
「めんどくせぇ」
それだけ。
オレと遊びに出んのは、そんなめんどくさいんだろうか。
聞くのが怖くて、それきり言わなくなった。
窓の外を流れる景色に目を向ける。
「…あ…れ」
思わず声を出す。
…知らない、景色だったから。
思わず運転席の阿部を見る。
「…んだよ」
不機嫌そうな顔。
…その顔が、なんだか決まり悪そうな表情に変わった気がした。
不機嫌なんじゃない…照れてるんだ。
思わず、顔が緩む。
「…ね…どこ連れてってくれんの?」
「着いたらわかる」
「えー…教えてよ」
「…黙ってねぇと向き変えて帰るぞ」
「阿部ってば素直じゃないんだから」
「……」
「あ…う、ウソです!素直でかっこいいです!阿部君!阿部様!」
うるさい、と呆れたように言った阿部の顔には。
珍しく、優しい笑みが浮かんでいた。
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大学生の二人、という設定。
イメージした歌は「O.サカ.ラバー」です。
大学生の二人は思ったより書いてて楽しかったので、今後も続く…かもしれません。
設定なんかもそのうち決めたい。
阿部が大阪で、水谷が東京かな。