優しい指つれない君

□逃避
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一緒にいたいと思ってもらえるなら。

別に、特別な関係じゃなくていい。

友達でも、いい。

一番じゃなくてもいい。


一緒にいれるなら。

それ以上欲張らない。

欲張っちゃ、いけない。



  

   ***




「待たせて悪ぃ!…あれ、阿部は?」

「…先に行ったよ」

「そか。なんか最近はりきってんなぁ…」

「…そーだね」



阿部と三橋は、最近結構うまくやっているみたいだ。

二人きりってわけじゃないけど一緒に帰ってるし、早めに部活に出て

投球練習したりしている。

ちょっと前まではオレが間に入ってないと全然会話も続かなかったのに。


二人の仲をとりもってあげようとしてるオレにとっては嬉しいこと。

…嬉しいことの、はずなんだけど。




「どうした?なんか、元気ねぇな」

「…え…あ、そんなことないって。なんか腹減ったなー…ってさ」

「今から練習だぞ?大丈夫かよ」



阿部と三橋のことを考えると時々こんなふうに上の空になる。

隣を歩いていた花井の心配そうな問いに、ごまかそうと笑ってみせる。


自分で決めたことじゃないか。

落ち込んでどうすんだよ。


…オレは一番じゃなくてもいい。

阿部と一緒にいれるならいい。


オレはそう思ってた。

思おうと、してたんだ。




  
   ***




「……」



部室のドアを開けようとして、ふと花井が手を止めた。

それからじっと中の様子を伺うようにドアに耳を近づけている。



「……花井?」

「…シッ…静かに」

「……」



何か聞こえるんだろうか。

室内は電気もついていなくて暗い。

まだ日は暮れてないけれど、部室内は電気をつけないと薄暗い。

誰かいるなら電気をつけているはずなのに。


花井もそれを不審に思ったのかもしれない。

しばらく中の様子を伺ってから、不意に勢いよくドアを開けた。



「……あ…」

「……」





どのくらい黙っていただろうか。

みんな声を出せずにただお互いに呆然としていた。

オレも、花井も…



そして、阿部と三橋も。




「…お前ら何やってんだよ、電気もつけずに」

「……別に」

「ビビったじゃねぇか、電気ついてないのに人の気配がすっからさ…」

「あ…ご、ごめ…」

「…別に謝らなくていい。早とちりした花井が悪い」

「なっ…オレのせいかよ!」



いつもどおりの阿部と花井のやりとり。

そしてその傍でおろおろする三橋。

別にいつもどおりのことだから、花井も気にしていない。




だけど…オレは。




「……水谷?着替えないのか」



花井の言葉に、ビクッと身体が竦んだ。

自分でも驚くくらい。



「…水谷…?」



花井がオレを不思議そうに見ている。

三橋も、見ている。


……阿部も…。

阿部の視線が、オレを捉える。

その目が、オレの心を見透かしてるように思えて…


どうしようもなく、逃げ出したくなった。



「あ…おい、水谷!?」






花井の声。

阿部の視線。

三橋の顔。

ドアを開けた一瞬、見えた二人の姿。



一秒でも早く、逃げ出したくて。

オレは駆け出した。





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