優しい指つれない君

□失敗と、感謝
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コンビニに向かう道のりは、予想以上にきついものだった。



三人でコンビニに寄る作戦はオレが考えたものだけど…阿部だって結構乗り気だったはずだ。

それなのに…阿部ときたら全然三橋と話を続けようとしていない。

三橋は三橋で阿部に視線を向けないようにしている。


…結局、オレが必死に二人に話題を振り続けた。

阿部に話を振ると、


「…あぁ」


の一言。

三橋に話を振ると、


「へ…へぇ…」


の一言。


…全然、続かない。



コンビニに着く頃には、オレはすっかり疲れきっていた。

…こんな作戦組むんじゃなかった。

オレは本気で後悔していた。



「…おい、阿部」

「…あ?」



三橋がデザートを選ぶのに夢中になっている間に、オレはこっそり阿部を呼んだ。

パンを片手に阿部がこちらを振り向く。

その顔は、いつにも増して不機嫌そうだ。



「こっち…こっち、来い」

「…んだよ」

「いーから…っ」


訝しげな視線を向けてくる阿部を、半ば強引に雑誌コーナーへ引っ張っていく。



「…あのなぁ…もっと、自分からも三橋に話題ふれよ」



引っ張っていた阿部の腕を離すと、呆れたように呟く。

それを聞いて、阿部は眉間のシワをさらに深くした。



「…るせぇな…」

「うるさいって…誰のためにこんな作戦やってると思ってんだよ!」

「…声が大きい…」



阿部の指摘にハッとして、棚の端からそっとデザートコーナーを見る。

三橋は気づいていないらしく、まだどれにしようか悩んでいる。

オレはホッとして、阿部の方に視線を戻した。




「…阿部が全然話さないから、疲れちゃっただろ…」

「…だってアイツ…全然オレの方見ねぇもん」

「……」

「…まさかこんなに嫌われてるとは思ってなかった」



阿部の呟きに、オレは思わず黙ってしまった。

少し拗ねたように呟く阿部の表情は、なんだか悲しそうで。


…そんだけ、三橋ともっと仲良くしたいんだ。


再び、胸がもやもやとしてくる。



阿部のために、一生懸命チャンスを作ってあげてるオレより。

阿部を見ようともしない、三橋の方がいいんだ。




「…水谷?」

「…あ…なんでも、ない…」



不思議そうな阿部の声にハッとして、慌てて首を振る。


何をいまさら考えてるんだ。

そんなの、わかってたことだ。

わかっててオレは…。


二人を見守るって、決めたんだから。




「…とにかく、これからはもっと自分から話しかけてみなよ」

「…わーったよ…」



ため息をつきながらも、阿部はしぶしぶといった感じで頷いた。



「ん、よろしい」

「…えらそうだな…水谷のくせに」

「なんだよー…オレのくせに、っていうのは…」



からかうような笑みを浮かべ、さぁね、とだけ答えて阿部はパンのコーナーに戻っていった。

…その背を見送って、思わず笑みが浮かんでしまう。



そのとき、ふと視線を感じた。

何気なくそちらへ目を向けると。



三橋が、こちらを見ていた。

視線が合うと、ハッとして慌ててそっぽを向く。


…今の、見ていたんだろうか。


別に見られて困るもんじゃない。

ただ…オレと阿部の小さなやりとりに入り込まれた気がして。



そんな風に感じてしまう自分を、イヤなヤツだと思った。





その後、結局三橋のデザート選びに時間がかかってしまい。

食うのは帰ってから、ということになった。




「…んじゃ、また明日な」



阿部が一足早く自転車に跨り、こちらを振り向いた。

今、三橋と二人になるのは少しイヤな気がしたけれど…そんなこといえるわけがない。

また明日、と阿部を見送ってオレも自転車に跨った。


何か、イヤなことを言ってしまう前に。

三橋と別れようと思った。




「…んじゃ、また明日」

「あ…水谷く…」



さっさと自転車を漕ごうとしていたオレを、三橋が呼び止めた。

こんなことはほとんどない。

三橋が呼び止めるなんて。



「…ん…?」



一瞬よぎった不安を打ち消そうと、オレは笑顔で三橋を振り返る。

三橋は、どう言おうか言葉を選んでいるように見えた。

視線が定まらない。うろうろと彷徨っている。



「…どうした?」

「あ…あ…っと…」



その様子が何だかかわいそうになってきて、思わず自転車を降りる。

自転車をとめ、三橋の傍まで近寄り顔をのぞく。




「あ…きょ、今日…は…あり、がと…う、っ」

「……」



予想していなかった言葉に、一瞬ぽかんとしてしまう。


…楽しかったんだろうか。

阿部と、全然話せなかったのに。




「…た、たの、し…かった、よ!」

「そ…そっか、なら…よかった…」



そう言う三橋は照れたように笑っている。

…ウソじゃないみたいだ。




「じゃ、じゃあ…また、あした!」

「あ…あぁ、またな」



三橋は照れくさくなったのか、すばやく自転車に跨った。

そうして逃げるように去ってしまった。




「…阿部に言ってやればよかったのに」



三橋が見えなくなってしまった後、思わずぽつりと呟いた。



…でも、なぜだろう。

がんばってよかったかも、なんて思えた。


胸のもやもやは、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。





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