abemizu 100

□006 愛しき盾
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力が、あったらいいのに。

すごい力が。

そうしたら…大好きな人を守ってあげられる。



「…くだんねぇ」

「えー…そう?」


聴きなれたCMの音楽。ぼんやりとテレビを眺めていたら、ぽつりと阿部が呟いた。

さっきまで見ていた、ドラマのことを言ってるんだ。


「力なんか持ってなくたって、別に困りゃしねぇだろうが」

「そうかなぁ?でもほら、例えば悪の組織とかが現れてさぁ」

「…お前テレビの見すぎ。くだんねぇ」


阿部はいつだって現実的だ。

だけど、悪の組織じゃなくたって悪いヤツはたくさんいる。


「でも…オレは阿部のこと守ってあげたいから…力がもらえるなら、欲しいよ」


別に危ない目に遭わなくたって。

力があれば、安心だし阿部にも頼りにしてもらえる。

…今のオレよりは、少なくともずっと。


「……くだんねぇ」

「もー…それしかいえないのかよ?」


阿部の言葉に唇を尖らせる。

阿部を守りたいって思うことは、くだらないの?


「オレは守ってもらう必要ねぇんだよ。しかもお前なんかに」

「うっわー…何その言い方。傷ついた…」


嬉しい、とか言ってくれるとは思ってなかったけど…そういう言い方はないだろ…。

もう拗ねてやる。

オレは阿部に背中を向けた。


「…お前、オレをそんな情けなくしたいわけ?」

「……」

「おい…水谷」


頭にきたから、何も答えない。

阿部のバカ…。

オレだって、阿部を守りたいんだ。

大事な人を…守りたいんだ…。


「……」



気まずい沈黙が続いている。

テレビは別の番組が始まったらしく、笑い声とか音楽がうるさいくらいだ。

…無視したのはやりすぎだったかな。

仕方なく阿部の方を振り返ろうとした。


…そのとき。


「……っ」

「……悪かった…」


突然、背中に重みを感じた。

阿部の声が、耳のすぐ傍で聞こえる。

阿部の体温を、感じる。


「…お前に守ってもらわなくても、オレは平気だって…言いたかっただけなんだよ」

「…阿部…」

「でも…そうだよな、お前だって男なんだもんな…」


悪かった、ともう一度呟いて阿部は身体を離す。

振り返って阿部を見つめると、阿部は情けなさそうに笑った。


「…オレが水谷を守りたいって思ってるように…お前もそう思ってくれてるってことだよな」

「…そうだよ…」

「サンキュ…」


うまく言葉が出なくてそれだけ言って頷くと、阿部は今度は正面からオレを抱き寄せた。

いつも阿部の体温に包まれると、守られてるって感じる。

阿部の背中に手を伸ばす。

阿部にも感じて欲しい…。

オレも、阿部を守りたいってこと。



「……守れる力がなくても…オレ守りたい…」

「…十分だって…水谷がいるだけでオレはいい…」


それだけで守られてるよ、と囁くように言ってから阿部はばつが悪そうにオレの肩に顔を寄せた。

オレに顔を見せたくない、とでも言うような仕草で。

そうして、小さく呟いた。


言わせんなよ…バカ…。


その言葉に、思わず笑ってしまう。




オレがいることで…阿部が守られてるって思ってくれるなら。

オレは、絶対阿部のそばを、離れない。


約束するよ。



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お題006番、「愛しき盾」です。
うーん…このお題は難しかったです。
そもそも愛しき盾って??という感じだったので…(苦笑)

もしかして意味微妙に取り違えてるかもしれないですが;
そこはお許しください…。

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