abemizu 100

□005 無力
1ページ/1ページ




水谷の、笑った顔が好きだ。

まるで、花が開いたみたいに明るく笑う顔が好きだ。

その顔を見てるだけで、幸せな気持ちになれる。



…だけど。


だけど…水谷の笑顔を曇らせるのはいつも俺で。

水谷を泣かせるのは…いつも俺で。


俺には、水谷を笑わせる力はないのかもしれないと。

…たまに思う。




「…水谷…」


ビクッ、と小さな背中が震える。

また…泣いてる。

…泣かせたいわけじゃないのに。


俺の言葉は…いつもまっすぐに水谷の心に届いて。

突き抜けて…傷つけてしまう。

時々、自分が嫌でたまらなくなる。


「……ごめん、ね…オレ…」


ゴシゴシ涙を拭いて、無理に明るい声を出そうとしてる。

謝るのも…いつも水谷の方が先で。

水谷は悪くないのに。


「…んで、謝るんだよ」


自分の情けなさを水谷のせいにする。

ダメなオレ。

なんの力も持ってない…弱いオレ。



「水谷…笑ってくれよ…」



笑って。

水谷に…笑って欲しい。



「…阿部…」

「水谷の…笑った顔が見てぇんだ…」

「……」

「笑った顔が……好きだ、から…」




泣かして、ごめん。



小さくそれだけ呟くと、それ以外水谷を見ていられなくて背を向けた。




「…阿部…」



ふわりと、背中に温もりを感じた。

心地よい、体温。


思わず顔を後ろに向けると…


そこには…大好きな笑顔があった。



「…阿部…ありがと。大好き…」



幸せそうな笑顔。

これ以上ないくらい…こぼれそうな笑顔。




オレには…なんの力もないけど。

水谷を傷つけることしか、できないかもしれないけど。


でも…水谷がオレに笑いかけてくれるなら。

オレを…好きだと言ってくれるなら。


オレは…お前のそばにいるから。

ずっと…いるから。




-----------------


お題005番、「無力」です。
阿部はたぶん水谷の笑顔が大好きで、すごく癒されてると思います。
阿部がいるから水谷は笑っていられるのかな、とか。
でも阿部がそこがわからなくて、泣かしてばっかりだと思っていて。
そういう意味で、無力のお題に合わせて書いてみました。

そしてやっぱり阿部視点(笑)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ