abemizu

□運命なんてもの
1ページ/1ページ




こうして、同じ場所に生まれて出会えたこと。

ほんとに幸せだと思ってる。


ほんの少しでも、違っていたら。

今、きっとオレと阿部は一緒にいないだろうから。



でも…ひょっとしたら、別の場所に生まれていてもこんなふうに出会えていたのかな、なんて。

ドラマみたいな展開を、想像してみたりする。




「…ねー…阿部」

「…あ?」

「もしもさぁ…オレが阿部と違う学校だったとするじゃん?」

「…んだよ、いきなり」

「もしも、だよ。もしも」

「…そしたら何だってんだよ」

「そしたら…オレたちってこんなふうになってなかったのかなぁ…とかさ」

「…」

「ねー…どう思う?」

「…さぁな」



くだんねぇ、と阿部はいつものお決まりの言葉を吐いて再び雑誌に集中しはじめる。

…まぁ、そうはいっても視線は最初からずっと雑誌に向かったままだけど。



「オレはさぁ…阿部と違う学校でも、きっと阿部を好きんなったと思うんだ」

「……」

「たとえばー…オレが桐青とかだったりすんじゃん」

「……」

「西浦に負けちゃってさ、くそー!とか思うんだけど。でも阿部や西浦のみんなを見てさ、

アイツら同じ1年なのにすげーなぁって、思うわけ」

「……」

「んで、特に阿部のリードのすごさとかさ、三橋の頑張りとか見てすげーって思ったりして…」

「……それなら、一番印象に残んのは田島じゃねぇの」



阿部の反応がないのはいつものことで、おかまいなしに喋るオレ。

そのオレの話を遮って、阿部がぽつりと呟いた。

その言葉に、阿部へ視線を向ける。


相変わらず雑誌を見たままの阿部。

その顔は、なんだか面白くなさそうに見える。


…なんだか、拗ねてるみたいだ。



「…どしたの?阿部」

「……別に」

「…別にって顔には見えないけど…」

「……」



それきり、阿部は黙ってしまった。

視線は雑誌に向けたまま。

…だけど、ページは捲っていない。

読んでないんだ。



「…あーべ?」

「……」

「何怒ってんのさ…」



退屈しのぎに遊んでいたゲーム機を置くと、阿部の隣に移動する。

ベッドに腰を下ろして阿部の肩を軽く揺すってみるけれど、やっぱり反応はない。


それでもオレはしつこくゆさゆさと阿部を揺すった。



「あーべ、阿部ってばぁ……っ、わ…!」



突然、強い力でグイと引き寄せられた。

バランスを崩して、阿部の方へ倒れる。



「あ……べ…?」

「……オレは…お前が西浦でよかったと思ってる…」



低い、小さな声で阿部が呟いた。

耳元で囁かれる声がくすぐったい。

顔を上げようとしたオレの動きを封じるように、阿部がグッと力を入れてくる。

仕方なく、阿部の腹辺りに顔を埋める。




「…お前と……同じ場所で出会えて…よかった……」



独り言のように、小さな小さな声で呟かれた言葉。


阿部も、おんなじことを考えてくれてたんだ。

そう思ったら、胸がじんわりと熱くなった。




「……泣き虫」

「…るさいな…もぉ…」




誰のせいだよ、と文句を言うと。

阿部は困ったように笑って乱暴にオレの頭をなでた。




もしも、ほんとうに運命なんてものがあるなら。


オレと阿部が出会えたのは、運命だって思う。



神様なんて、いつもは信じていないけど。


今だけは、神様にだって感謝したい気分なんだ。




神様、阿部と会わせてくれて、ありがとう。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ