abemizu

□隆也とフミキ
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ペットなんて、めんどくさいと思ってた。

エサをやったり掃除をしたり…。

それでなくても一人暮らしは何かとめんどくさいことが多い。

だから、飼うつもりなんてなかった。



そんなオレが、アイツに出会ったのは本当に偶然で…。


たまたま通りかかったペットショップ。

ただ何の気なしに視線を向けた先に…その店があったというだけ。

店のウィンドウに、小さなケージがあった。

その中で、せっせとエサを食べている姿。

薄茶色のふわふわとした柔らかそうな毛が、口を動かすたびに軽く揺れる。


思わずオレは、その姿に見入っていた。

オレに背を向けて一生懸命に何かをほおばっている。

ソイツのほかにも、同じケージには何匹か仲間がいた。

けれども必死に食事をしているのはソイツだけ。

なんだか興味がわいてしまい、近づいて観察する。


ウィンドウに近寄って、顔を近づける。

ケージの中にオレの影が映った。それに気づいて他のヤツらはささっと隠れる。

ただ、ソイツだけはそれでも必死に食事を続けていた。


…食い意地のはってるヤツだな。

その姿を見て思わず笑ってしまう。


ソイツはしばらくもぐもぐと口を動かしていたが、やがて他のヤツらが隠れてしまっている

ことに気づいて動きを止めた。

そうして、ようやくオレの方に顔を向ける。



「……」

「……」



オレたちは、そうしてしばらく見つめあっていた。

ソイツは小さな耳をぴくぴくと動かして、オレをじっと見ている。

口の中にはいっぱいにエサがつまっているようで、頬袋が大きく膨らんでいた。



どのくらいそうしていただろうか。

ソイツも他のヤツらのように隠れるのだろうと思っていたのだけれど…

不思議なことに、ソイツはオレの方へささっと駆け寄ってくるとふんふんと鼻を鳴らした。


…ヘンなヤツ。オレがこわくないのか…?



オレが不思議そうに見ていたからだろうか。

ソイツはこわくない、とでもいうようにオレをじっと見上げていた。

こぼれそうに大きな目、柔らかそうなふわふわの毛。小さな耳。




これが、オレとソイツ…フミキの、初めての出会いだった。





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