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□水+栄クリスマス
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今日はクリスマス。

部活も夕方までで終わり、野球部もなんだかクリスマス独特の楽しげな雰囲気に包まれている。

かくいうオレも、今日は少し浮かれていた。

うちに帰ればケーキが待っている。

たったそれだけのことだけれど、家族みんなでケーキを食べられるのが嬉しい。



「栄口、もう帰るのか?」

「あー…うん、家族が待ってるから」

「そっか、残念。これからカラオケでも行くかーって話になってんだけど」



泉と話をしながら、部室内を軽く見回す。

田島は花井にくっついて離れない。

たぶん今日は二人でクリスマスを祝うんだろう。


水谷へ視線を向ける。

なんだか少し挙動不審だ。

急いで着替えようとしているけれど、焦っているせいで逆に時間がかかっている。

きっと今日は阿部と一緒に過ごそうと思ってるに違いない。

…阿部はといえば…既に帰ってしまったのか姿が見えない。



つまり、それ以外のメンバーでカラオケ…ってことなんだろう。

あとは…浜田さんあたりも一緒かもしれない。



「ごめん。やっぱオレは早く帰るよ」

「…そっか。んじゃ、また行こうぜ」



泉に謝って、オレは部室を出た。

冷たい風が頬をさすように吹いている。

思わず首を引っ込め、少し前かがみになりながら自転車置き場に向かう。




「あっ…!栄口ー…っ!!」



ふと、少し遠くから名前を呼ばれた気がして振り返った。

部室の方から水谷が走ってくるのが見える。

肩に鞄をかけて…手に、小さな袋を持っている。




「はぁ…はぁ…っ」

「…大丈夫?水谷」



オレの傍まで来ると、水谷は息をきらせながら大丈夫、と頷いた。

そうして、オレの前に小さな袋を差し出す。



「…なに?」

「これ…っ、く、クリスマス…だから…」



たいしたもんじゃないけど、と途切れ途切れに言いながら水谷は笑った。




「…オレに?」

「ん…いつも、世話ん…なってる、から…」



息を整えながら再度促されるように袋を前に出されて、オレはそれを受け取った。

袋の中には小さな白い箱が入っている。

ゆっくりとその箱を開け、中をのぞくと。



「……これ…」

「ねーちゃんがさ、作ってくれたんだ。味はたぶん…大丈夫だと思う」



驚いて思わず水谷を見ると、水谷はどこか照れくさそうに早口で言った。



「…メリークリスマス」

「水谷…ありがとう」



すごく嬉しい、と呟くように告げる。

水谷は嬉しそうに笑うと、みんなで食ってね、と付け足すように言った。

わざわざオレとオレの家族のために作ってくれたんだ。

そう思うと、すごく嬉しかった。



「じゃ、また明日」

「ん、またね」

「…阿部と、楽しいクリスマスをね?」

「…ありがと。がんばるよ」



からかったつもりだったけれど、水谷は照れながらも幸せそうに頷いた。

阿部のことでいつも相談に乗っているせいか、水谷の幸せな顔を見るとこっちまで嬉しくなる。

まるで自分のことみたいに。




水谷に見送られ、オレは自転車に乗って学校を出た。

自転車の籠の中で僅かに揺れる白い箱。

中にはクリームたっぷりのショートケーキが入っている。

小さなケーキだけれど、最高のプレゼントだと思った。



阿部の態度や言葉に時々イラつくことはあるけれど。

水谷が幸せなら…それだけでいい。




どうか、二人が幸せなクリスマスをおくれますように。

体に吹き付けてくる冷たい風が、なんだか少し寒く感じなくなったような気がした。


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クリスマス企画。水+栄口編。
この二人はカプっていうより、コンビというか友情というか…。
そんなほのぼのが大好きです。





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