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□田花クリスマス
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「はないー、クリスマスパーティーやろうぜ!」



いい匂いが漂ってきそうなチキンのCMを先ほどまで食い入るように見つめていた田島が、

こちらを急に振り返って言った。

大きな目をさらに大きく開き、キラキラと輝かせている。

…さっきのCMの影響であることは間違いなさそうだ。



「…パーティーって…あぁ、みんな呼んでか?」



野球部全員でやるとなると…また場所に困りそうだ。

三橋の家はやっぱり家族でクリスマスを祝ったりするんだろうか…。

そうなると、大人数で押しかけるわけにはいかない。



「違うって、オレと、花井で!」



場所のことを考えていると、田島がこちらへ身を乗り出してブンブンと首を振った。



「……は?二人で、か?」

「そう!二人で!」



確認のため問いかけると、うんうんと頷いてにかっと歯を見せて笑う。

…二人でパーティー…男二人で。



「……」

「…イヤか?」



オレが黙ってしまったからだろう。

田島は笑うのを止めてオレの様子を伺いながら呟いた。

先ほどの笑顔はすっかり消えて、僅かに眉を下げしょんぼりしている。

…まるで犬だ、と思った。



「イヤじゃ…ねーけど」

「マジで?よかったぁ!」



犬が耳を垂らして落ち込んでいるような様子にかわいそうになって、緩く首を振る。

否定すると、途端にまた田島は嬉しそうに笑った。

ころころ表情が変わるのはいつものことだ。




「でも二人って、なんかさみしくねぇか?」

「ぜーんぜん!オレ、花井と二人でクリスマスやりてーもん」



オレの心配も全く気にすることなく、田島は張り切った様子で指折り何かを数えている。



「…何数えてんだよ」

「…んー…何食うかなってこと。チキンだろー、ケーキだろー、あとピザに…」

「……」



クリスマスを祝いたいってより、好きなだけ食いたいだけだろ。

そう突っ込みたいのを我慢して、オレはこっそりため息をついた。




「…あっ!!」

「…っ、な、なんだよ!?」




オレがもう一度こっそりため息をついた途端、田島が大きな声を出した。

ため息が聞こえてしまったのかと若干動揺するも、田島はそんなこと気にもしていない様子だ。

どうやら何か思いついたらしい。

ちらりとオレの方に視線を向けると、なぁなぁ、と言いながら傍へ寄ってくる。

いつもより少し甘えるような声の調子。

…何かをねだるときの声だ。



「…なんだよ…」



思わず少し身構えてしまいながら、近くにきた田島を見つめる。

田島はへへっと笑うとどこか照れくさそうに頭を掻いた。




「プレゼント交換とかさ、しねぇ?」

「…プレゼント?」




クリスマスだし、と田島は楽しそうに言ってオレの隣に座った。

予想していなかった言葉に一瞬ぽかんとするも、ホッと力を抜く。



「あー…そうだな、じゃあ何か用意しとくわ」

「…用意とか、別にしなくていーぜ?」



力を抜いたオレの手を、ギュッと田島が握ってくる。

なんで、と問いかけようとして田島を見て…オレは理由を悟った。


田島はまっすぐにオレを見つめていた。

…その瞳が、僅かに熱を帯びているように感じた。


……そういうことか。




「……な…いーだろ…?」



思わず顔を逸らしたオレの耳元で、そっと囁くように田島が呟いた。

その声にすらいつもと違う熱がこもっているように感じる。



「………考えとく」

「えぇ〜!?考えとくだけかよっ?いーじゃんかぁ、クリスマスなんだし!」



オレの答えが不満だったらしく、田島はギャアギャアと文句を言っている。

最近ずっと拒否していたせいかもしれない。

CMのせいというより、我慢の限界ということか…。



いつまでも文句を言ってくる田島の横で、オレは深いため息をついた。



明日はクリスマス。


今年は何だか…疲れるクリスマスになりそうだ、と思った。




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クリスマス企画。
12/24




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