拍手のお話

□寒い日シリーズ
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 三反田 数馬



「ううっ、ごめんね、ごめんね」

『ゴホッ、泣かないで、かずま…』

「だって、僕が…僕の所為で」

『ううん…数馬の所為じゃ、ないよ』

「僕が不運なんかじゃなかったら…っ、よかったんだ」


僕の所為で大切な人に風邪を引かせてしまった
これが僕の人生最大の不運だ


『ちがうよ?風邪なんかに負けた私が悪いの』

「違う僕の所為なんだ…ぐすっ」


最初は、待ち合わせをしていたんだ
それで、待ち合わせ場所に向かおうとしたら…落ちたんだ。
穴掘り大好き綾部先輩の蛸壺に。
それはもう、綺麗に。
今日だけは落ちたくなかったけど、買い物に誘われた事に浮かれてて気づかなくて
あまりの驚きに格好悪いけど穴の中で気絶して、気づいたら外は真っ暗で
こんな不運が続いた僕は、やっとのことで引っ張り出されたのだけれども
僕を待っていた方は、寒さのあまりに風邪を引いてしまったのだ


『数馬が泥だらけで傷だらけなのに急いで来てくれて、嬉しかったよ』

「当たり前だよ、寒いのに何時間も待たせて…っ」

『すっぽかされちゃったのかな、って悲しくなったけど…』

「ご、ごめん…っ!」

『ううん、待っててよかったって思ってるよ』

「おこっていいんだよ、ふうっ、ぐすっ…」

『・・・なんで?』

「ぼ、僕の所為で風邪引いたんだもん…っ」

『…数馬じゃなかったらあんなに待ってないよ、ばか』

「へ?」

『数馬だからずっと待ってたの、』

「それって…え、どういう…」

『数馬が、好きだから』

「……え、え、え!ぼ、ぼくが!?///」

『そう、かずまが』


どきん、と心臓が跳ねた
だって好きな子に好きだ、って言われてる
こんな事生まれて初めてだから、どうしていいか分からなくて
頭の中で必死で、言葉を探した


「ぼ、僕も、好き、…!だから浮かれてて蛸壺に気づかなかったんだ」

『ほんとに?だったら、すごい嬉しい』

「僕も、…すごく嬉しい」


布団から出ている手を取って
ごめんね、とありがとう、の意味を込めて
きゅ、っとその熱い手を握ると優しく握り返してくれた


「でも、ご、ごめんね、買い物行ってあげられなくて…」

『…誘ったのはね、一緒に居たかっただけだから』

「えっ…」

『だから今、叶ってる』

「ずっと居るからね、そばに居るから」

『えへへ、ありがとう』


今、君の顔が真っ赤なのは
熱の所為だけじゃないのかもしれない
そうだったら、いいな


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