marionette
□甘美なる死
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「おや?」
ケテルブルグは年がら年中ずっと寒い。
その証拠に雪も降ってる。
地元出身の自分でも寒い日にはこんもりとした羽毛布団を重ねて眠る。
しかし訪れる観光客の中には初めてケテルブルグに来たものも少なくないらしく、そういう人の何人かはくしゃみをしているようだ。
旅路の途中で熱を出されてはかなわないと初めてケテルブルグに来るメンバーには念入りに、念入り、これでもかという程注意を促したはずなのだが。
「…、っくしゅっ…」
…………。
「……まぁ、あなたが真面目に人の話を聞くはずありませんでしたね」
少々人の話を聞かないところは、変わると決意を固めた彼にも変えることはなかなか出来ないらしい。
目にかかっている、赤と言うより朱に近い髪を横に梳いてやりながらコートを脱いだ姿でソファーに寝ている彼を揺さぶり起こす。
「ルーク。起きなさい。」
「……すー…」
「さっさと起きなさい。風邪を引きますよ、…ルーク。」
「…くー…」
「……。」
(起きないつもりですか。……いい度胸ですね。)
ジェイドはずり落ちていたメガネをクイッとかけ直すと、ニヤリと微笑んだ。
ジェイドは手袋を外し、自分の手が冷え切っているのを確かめると、そのまま健やかに寝息をたてているルークに近寄り、そっと両手を伸ばした。
近くに寄ってみると、少々傷んだ髪と意外と長いまつげに目がいった。
(……傷んでる…)
……ガイにでも切るように言っておきましょうか。そう独りごちると、ジェイドはヒヤリとした両手で顔の輪郭をなぞるようにこめかみ、頬、顎と手を滑らすと、最後に首筋にペタリと両手を置いた。
「っっ!?つめた…っ!?」
「やれやれ、やっと起きましたか」
「じじじじっ、ジェイド!?い、いきなり何すんだよ!!」
触れた途端に驚いて目を覚まし、ガバリと身を起こすルークを見て、自然と爽やかな笑顔になる自分を自覚しながら大袈裟に額に手を当てると、"困った子ですね"と言うような仕草をしてやった。