短編
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《とある男の恋事情》
俺が杞城院大地(キジョウインダイチ)として生まれてから18年が経とうとした。
自分で言ってはなんだが、杞城院家もっての才能の持ち主だと言われている。
いや、2トップか……。
俺の上がいたんだった。
そんな俺に近寄ってくる女もどこかしら優れていて……まぁ、いろいろと女に困らない日々を送っている。
そんなある時、メイドの眼を盗んで屋敷を出た。
なぜかって、ある女をからかいにいくんだよ。
その子は人間で、つい最近偶然出会って知り合った。
俺が通う大学の並列の高校に通っていて、話が合うし、からかって面白い奴だ。
俺が吸血鬼だなんて知ったらどう反応するかな……?
「よう、まな板」
コイツは胸がない。
「あ゛……変態!」
「先輩に向かって何言ってんだよ、葉月(ハヅキ)」
「だって、人を馬鹿にしてっ、何なんですか!」
面白いなー。
「いやいや、俺はな?葉月にも青春を味わってほしいんだよ。いつまでも経っても成長しないと結婚どころか彼氏もできないぞー」
肩に手を回そうとしたら、サッと避けられる。
「杞城院先輩……100メートルは放れてくださいね」
「おい、100メートルって認知もできないぞ」
俺は笑って、葉月の髪をワシャワシャとかき乱して嫌がる顔を見て、もう一度笑った。
「はぁ、杞城院先輩みたいなのがどうしてモテるんですかねー……全然分からないな」
「……お前、マジでぶっ殺す」
ポキポキ、と指の骨を鳴らす。
すると、俺と同じ大学に通う女がこちらに近づいてきた。
「やっほー、大地!あれ、その子……大地の彼女?」
「は?コイツは後輩だよ。それに、まだ高校生だぜ?」
俺にしてみれば葉月は若すぎて恋愛対象に入らない。
「じゃあな、まな板。これから先は大人の時間なんで、後から教えてやるよ」
俺は気づいていなかった。
「いりませんよ、ばーか」
自分の気持ちにも、コイツの気持ちにも気づいてやれなかったんだ。
「また、馬鹿って言っ――」
あ……無視か。
振り向いたら、もう葉月は小さい背中を俺に向けていた。
やけに小さく見えた。
そして、気づいたらアイツは誰か知らない男に寄り添って、全てが手遅れになっていた。
俺、杞城院大地は18になって初めて失恋をした。
早瀬葉月という女に。
アイツは高校を卒業して、県外の別な大学に入ったらしい。
もう会うことはないだろう。
いいさ、これで良かったんだ。
俺とお前は吸血鬼と人間で越えられない壁があるんだからな。
END