※ヒロイン名固定です!
苦手な方はご注意ください。


前回のお話…












車を一時間ほど走らせた頃だっただろうか。賑やかな町並みを通り抜けて山間部を進んだ先、巨大な城門が雲雀の前に現れた。
認証システムと警備員のチェックとを受けると、ゆっくりと門が開かれた。警備員の男たちが雲雀に深々と礼を垂れるのを無視して、彼は再びアクセルを踏み込んだ。城門から本邸まではまだ距離がある。雲雀は気持ちが急いて仕方がなかった。


ボンゴレ本部は、外見上は古く歴史を感じさせるような風貌の城だ。しかし内部は趣あるなかにもモダンな調度品が融和され、敷地内はすべて最新技術を駆使した警備システムで護られている。
特にボスや彼の守護者といった幹部の居住区はさらに強固な警備態勢が敷かれていて、雲雀の雲の守護者の部屋もそこに用意されていたが、彼が自室を利用する機会は少なかった。

そもそも、雲雀がボンゴレ本部に訪れること自体が少ないのだ。彼には自らが立ち上げた組織があるし、何より此処は人が多い。ボンゴレ本部は雲雀にとって、彼が嫌う群れの中なのだ。
ボスの召集にも応じず、自分の用がある時にだけふらりと立ち寄るのが常だった。

その雲雀がわざわざ此処に訪れたのには当然理由があった。




先日、雲雀は敵対ファミリーの武器庫の制圧の任を負った。単身乗り込んだはいいものの、雲雀は負傷し、そのうえ敵の応援が加わり、不利な状況になった。

その時、ボンゴレからの助勢だという女が現れた。戦闘の最中だというのに、彼女の美しさに雲雀は目どころか思考すら奪われる程だった。
そのうえ彼女は戦闘にも慣れているようで、向かってくる大の男どもを簡単にのしていった。不敵に弧を描く唇は余裕の表れ。立ち居姿は気品すら感じさせるのに、その動きは俊敏で力強く、何より雲雀は彼女の瞳にゾクゾクした。獲物を射止めるような鋭い眼光は、自分と近いものを感じる。彼女は間違いなく捕食者だ。


突然現れた強く美しい女に、雲雀は完全に魅せられていた。



しかし粗方敵を打ちのめし、残党を狩っている頃には彼女の姿は忽然と消えていた。然も自分の役目は終わったとばかりにあっけなく去ってしまったのだ。
彼女の手がかりを探してみたが、もともと此処は敵地だし彼女は身一つで現れたのだから、残されていたのは誰のものとも分からない戦闘痕ばかりで、彼女の痕跡など辿れるはずもなかった。

しかし彼女は己の手がかりを何一つ残さなかったくせに、雲雀に決定的なものを残して去った。
雲雀はぎりっと奥歯を噛み締めた。こんなにもあっさり消えてしまうなら、何も残さなければいいものを。


彼女は雲雀の胸のうちに、焦がれるような感情を残して往ってしまったのだ。







長い廊下を足早に進む。駐車場からここまで誰にも会わなかったために、廊下には雲雀の革靴の音だけがよく反響した。

雲雀は己の心境を省みる。彼にとってこの焦がれるような感情は未知のものであった。
しかし雲雀はたとえこれが新たに生まれた初めての感情だとしても、この新しい感情が恋情だと分からないほど鈍くはなかった。
そして雲雀のとった行動は実に明確だった。まずはあの女のことを知らねばならない。なにせ自分が想いを寄せてしまっていることには気付いたが、彼は想う相手のことを何一つ知らないのだ。

あの正体不明な女を応援に送って寄越したのはドン・ボンゴレこと沢田綱吉だ。あの男ならば当然彼女のことを知っているだろう。
知りたい。彼女のことを、どんなことでもいいから知りたかった。












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